攻撃にも防御にも偽情報にも――AIが顔を出し始めたセキュリティの現場

ここ最近のセキュリティニュースを見ていると、ある変化に気づきます。

AIが、攻撃する側にも、攻撃を受け止める側にも、そして「事件そのものの構成要素」にも顔を出し始めているのです。

この記事では、直近1〜2週間に報じられた事例をもとに、AIが今どのような形でセキュリティの現場に関わっているのかを整理します。

攻撃する側に現れたAI

韓国の複数の金融機関を狙ったサイバー攻撃を巡り、米セキュリティ企業CrowdStrikeが興味深い分析を公表しました。攻撃者は、中国で開発されたオープンソースの侵入テストツール「ARTEX」と、複数の大規模言語モデル(LLM)を組み合わせて利用していたとみられています。

さらに皮肉なことに、攻撃者はAIコーディングツール「Claude Code」を使って、自分自身の「セキュリティ研究者としての履歴書」を作成させていました。この履歴書の依頼文に記載されていたイニシャルや学歴、居住地などのデジタル痕跡が、攻撃者本人の身元を特定する手掛かりとして浮かび上がったのです。攻撃の実行にAIが使われただけでなく、AIに作らせた「自己紹介文」が自らの正体を暴く材料になった――という点は、AIの利用履歴がそのまま証拠になり得ることを示す象徴的な出来事といえます。

また、国内の不正アクセス急増を巡っても、識者から「AIエージェントによる自動化された高速攻撃が背景にあるのではないか」「もはや使われていない方が不自然だ」という指摘が出ています。偵察から侵入、情報の整理までを自動化することで、攻撃のスピードと件数が底上げされている可能性があるという見立てです。

「情報そのもの」がAIで作られる疑い

攻撃や分析にAIが使われるだけでなく、「漏洩したとされる情報自体が、AIによって捏造されたものではないか」と疑われる事例も出てきました。

サイバー犯罪フォーラムに「楽天の会員情報1億100万件を販売する」という投稿が現れた際、楽天グループは「情報漏えいは確認されていない」と否定しました。あるITジャーナリストは、公開されたサンプルデータの構造(氏名が姓名に分かれていない、電話番号の種別が区別されていないなど)が実際のサービスの複雑さと比べて不自然に単純である点を指摘し、「生成AIを用いることで大量の個人情報を捏造する技術的なハードルは下がっており、真偽の判定は難しそうだ」と述べています。

これは、「情報漏洩の疑いがある」という投稿そのものが、実在する被害を伴わない「それらしく見えるだけの偽データ」である可能性を示す事例です。今後、同種の偽の漏洩主張が増えることも想定しておく必要があります。

守る側でもAIの活用が進む

一方で、防御・診断の側でもAI活用が広がっています。Webアプリケーションの脆弱性診断にAIを組み込んだサービスや、生成AIを搭載したAndroidアプリ診断機能の提供開始など、診断の効率化・高速化を狙った動きが相次いでいます。

ただし、こうした「AIセキュリティスキャナー」が実際にどこまで信頼できるのか、その精度や見落としのリスクをどう評価すべきかは、業界内でも議論が続いているテーマです。AIが診断や検知の負担を軽減してくれる可能性がある一方、AIの判定結果をそのまま鵜呑みにしてよいわけではない、という慎重な見方も根強くあります。

まとめ:変わるのは「量」、変わらないのは「原則」

ここまで見てきた事例を整理すると、AIが変えているのは、攻撃の速度や件数、情報の捏造のしやすさといった「量」の部分です。攻撃の手口そのもの(フィッシング、認証情報の悪用、脆弱性の突破など)が根本から別物になったわけではありません。

だからこそ、中小企業が取るべき基本的な対策――多要素認証の徹底、ログの保存と監視、委託先の管理、そして「それらしく見える情報」を鵜呑みにしない姿勢――は、AI時代になっても変わりません。むしろ、AIによって攻撃側の効率が上がっている分、基本的な対策を後回しにする余裕は、これまで以上に小さくなっていると考えるべきでしょう。

攻撃にも防御にも偽情報にも AIが顔を出し始めたセキュリティの現場
最新情報をチェックしよう!