Qilin(Agenda)ランサムウェアの特徴と対処法を徹底解説 

Qilin(Agenda)ランサムウェアは、2022年に発見されたランサムウェアの一種です。世界中の医療機関や教育機関などに感染し、ファイルデータの暗号化や情報漏洩被害などをもたらしています。

本記事では、この新たな脅威「Qilin」の特徴や攻撃手口、感染時の症状、そして万が一被害に遭った際の正しい初期対応から、最も重要な予防策まで、企業のIT担当者や経営者が今知るべき情報を網羅的に解説します。

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「Qilin」ランサムウェアとは?

Qilinは、RaaS(Ransomware-as-a-Service)モデルで運営されるランサムウェアグループです。中心的な運営チームが強力な攻撃ツールを開発し、それを世界中のアフィリエイト(攻撃実行犯)に提供することで、組織的に活動しています。

出典:Cyberint

RaaSモデルとアフィリエイト募集の背景

Qilinは、ダークウェブ上のフォーラムで積極的にアフィリエイトを募集しています。特に、大手ランサムウェアグループ「RansomHub」が閉鎖された後、その活動場所を失った経験豊富な攻撃者がQilinのプログラムに参加したと見られており、これがグループの攻撃能力を押し上げる一因となったと考えられています。

「二重恐喝」による執拗な金銭要求

攻撃の基本戦略は「二重恐喝」です。単にファイルを暗号化して身代金を要求するだけでなく、攻撃の初期段階で窃取した機密データを人質に取り、「支払わなければデータをリークサイトで公開する」と脅迫します。これにより、バックアップがあっても支払いを拒否しにくい状況を作り出します。

世界中の多様な業種を狙う標的

Qilinの攻撃対象は特定の国や業種に限定されず、非常に広範囲に及びます。記事執筆時点で、日本、アメリカ、オーストラリア、ブラジル、カナダなど、南北アメリカ、ヨーロッパ、アジア太平洋地域の国々で被害が確認されています。特に、大手自動車部品サプライヤー「Yanfeng Automotive Interiors」への攻撃は、彼らが大規模な製造業のサプライチェーンを標的にする能力を持っていることを示しています。

Qilinランサムウェアの感染事例

ここではQilinランサムウェアの最新の感染事例として、2024年のイギリスの医療機関「Synnovis」におけるQilinランサムウェア感染について紹介します。

英病理検査機関であるSynnovisが6月3日にランサムウェア攻撃を受け、血液検査に必要なシステムの停止と、患者データの内、約400GBの個人情報がQilinが運営するリークサイト上で公開されたと発表しました。

公開された情報の中には患者の名前、生年月日、NHS番号(イギリス国民保健サービス番号10桁)、血液検査の説明などが含まれているとのことです。このQilinランサムウェア感染により3,000件以上の病院で予約や手術が中断されました。

同年9月19日に大部分のシステムの復旧が完了したことをSynnovisが発表しています。なお、調査は引き続き継続しており、国家犯罪対策庁 (NCA)、国立サイバー セキュリティ センター (NCSC)、および技術専門家らの支援を受けて調査を実施しているとのことです。

出典:BBS

出典:Synnovis

Qilinランサムウェアの技術的特徴と攻撃手法

Qilinがこれほどまでに警戒される理由は、その背後にある高度な技術力です。他のランサムウェアとは一線を画す、特徴的な攻撃手法を解説します。

出典:Cyberint

【特徴】プログラミング言語「Rust」採用の意図

Qilinランサムウェアの最も特筆すべき点は、プログラミング言語「Rust」で開発されていることです。Rustの採用は、攻撃者にとって複数のメリットをもたらします。

  • 高いパフォーマンスと安定性: Rustはメモリ管理が安全で並列処理に強く、マルウェアが高速かつ安定して動作します。
  • クロスプラットフォーム対応: WindowsやLinux、そして企業の仮想化基盤で広く使われるVMware ESXiなど、様々なOSに対応するバージョンを容易に開発できます。
  • 検知回避能力: Rustで書かれたコードはリバースエンジニアリング(解析)が比較的難しく、従来のセキュリティ製品による検知を回避しやすいという利点があります。

フィッシングメールによる初期侵入

現在のところ、主な侵入経路はフィッシングメールであると分析されています。標的組織の従業員を騙して、メールに記載された悪意のあるリンクをクリックさせ、そこからランサムウェアの感染に繋がる最初の足がかりを築きます。

高いカスタマイズ性と高速な暗号化

Qilinは、アフィリエイトが攻撃ごとに設定を細かく変更できる、非常に高いカスタマイズ性を備えています。

  • 設定の柔軟性: 暗号化後のファイル拡張子や、復旧を妨害するために強制終了させるプロセス(データベース、バックアップソフト等)を、標的の環境に合わせて自由に設定できます。
  • 高速な暗号化: 攻撃の効率と速度を上げるため、ファイル全体を暗号化するのではなく、ファイルの一部のみを暗号化する「部分暗号化」モードを複数搭載しています。「skip-step」や「percent」といったモードを使い分けることで、短時間で大量のファイルを人質に取ることが可能になります。

侵入経路や漏洩した情報を正確に特定するには、専門家によるフォレンジック調査が不可欠です。なぜなら、その客観的な調査結果が、監督官庁への報告や顧客への説明といった、企業の信頼回復に向けた全ての活動の土台となります。

Qilinランサムウェア感染後の具体的な症状

万が一、組織内のシステムがQilinに感染した場合、以下のような特徴的な症状が現れます。特に仮想化基盤が狙われた場合、その被害は計り知れません。

出典:Cyberint

カスタマイズされる拡張子とランサムノート

Qilinは拡張子をカスタマイズできるため、特定の文字列に限定されません。しかし、ファイルが暗号化され、開けなくなるという基本的な症状は同じです。同時に、暗号化された各フォルダには、身代金要求を行う「ランサムノート」が残されます。

「実際のランサムノート」画像出典:malwaretips

【要注意】ESXi環境の暗号化と事業への壊滅的影響

Qilinの最大の脅威は、企業のサーバー群を集約する仮想化基盤(VMware ESXi)を直接暗号化する能力です。一台のESXiホストが暗号化されると、その上で稼働している数十台もの仮想サーバー(ファイルサーバー、アプリケーションサーバー、データベースサーバー等)が一瞬にして全て機能不全に陥ります。

これは、個別のPCが感染するのとは比較にならない、事業継続そのものを揺るがす壊滅的な被害に直結します。

ランサムウェア本体の静的・動的解析はもちろん、メモリ上にのみ残る攻撃の痕跡や、改ざんされたレジストリ、潜伏する永続化の仕組みまでを徹底的に洗い出すには、専門家によるフォレンジック調査が不可欠です。

Qilinランサムウェア感染時の初期対応

もし前述のような症状を発見した場合、その後の対応が被害の大きさを左右します。パニックにならず、冷静に、そして迅速に正しい初期対応を行うことが極めて重要です。自己判断での誤った操作は状況を悪化させるだけですので、以下の手順を厳守してください。

ネットワークからの隔離

インシデント対応において、最も優先すべき行動は「被害拡大の防止」です。感染が疑われる端末やサーバー(特にESXiホスト)を、直ちにネットワークから物理的に切り離してください。

  • 有線LANの場合: LANケーブルを抜きます。
  • Wi-Fiの場合: Wi-Fi機能をオフにします。

これにより、Qilinが他のシステムへ感染を広げる「横展開」を阻止します。

証拠の保全

今後の調査や警察への届け出に備え、デジタル証拠を可能な限り保全することが重要です。

  • 電源は切らない: システムのメモリ上には攻撃の痕跡が残っています。シャットダウンすると重要な証拠が失われるため、電源は入れたままにしてください。
  • 操作しない: ファイルの削除や設定変更など、一切の操作を控えてください。意図せず証拠を破壊してしまう可能性があります。

身代金の支払いは厳禁

攻撃者は身代金の支払いを要求してきますが、警察庁やセキュリティ機関は、身代金を支払わないよう強く推奨しています。支払いに応じてもデータが復旧される保証はなく、犯罪組織に資金を提供する結果にしかなりません。また、「支払う企業」と認識され、将来的な再攻撃のリスクを高めます。

専門家・関係機関への報告

自社だけで解決しようとせず、速やかに外部の専門家や関係機関に連絡してください。

  • 契約しているセキュリティベンダーやIT保守会社
  • フォレンジック調査の専門企業
  • 管轄の都道府県警察のサイバー犯罪相談窓口
  • 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)

被害状況を客観的に証明し、法的な証拠を確保するため、第三者機関によるフォレンジック調査が行われます。もし自社だけで対応した場合、その調査結果は「客観性に欠ける」と見なされ、将来の訴訟などで不利な立場に置かれる可能性があるためです。

Qilinの被害を解明するフォレンジック調査の必要性

ランサムウェア被害からの真の復旧は、バックアップからデータを戻すだけでは完了しません。「なぜ、どのように攻撃されたのか」という根本原因を究明し、対策を講じなければ、必ず再発します。そのために不可欠なのが「フォレンジック調査」です。

フォレンジック調査でなければ分からないこと

専門家によるフォレンジック調査は、以下のようなインシデントの核心に迫る問いに、客観的な証拠をもって答えることができます。

  • 侵入経路の特定: 攻撃者はどのフィッシングメールから、どのようにして侵入したのか?
  • 被害範囲の特定: どのサーバー、アカウント、そしてESXiホストが影響を受け、攻撃者にどこまでアクセスされたのか?
  • 情報漏洩の全容解明: どの情報(個人情報、技術情報、財務情報など)が、どれくらいの量、外部に流出したのか?
  • 潜伏マルウェアの有無: Qilin以外に、将来の攻撃のためのバックドアなどが仕掛けられていないか?

これらの情報は、顧客や監督官庁への正確な報告や、再発防止策の策定に不可欠です。

自力での調査は最大のリスクを伴う

ランサムウェアの被害現場は、法的な観点から見れば「サイバー空間の事件現場」そのものです。IT担当者が善意で行う調査や復旧作業が、重要なデジタル証拠を破壊してしまう「証拠汚染」を引き起こすケースが後を絶ちません。

PCの再起動やファイルのコピー、安易なスキャンツールの実行といった操作は、ファイルのタイムスタンプやログ情報を書き換えてしまい、一度失われると元に戻すことはできません。このような状態では、警察の捜査や、将来の訴訟において法的に有効な証拠として認められなくなる可能性があります。根本原因の究明と自社の法的立場を守るためにも、自己判断での調査は絶対に避け、インシデント発生後すぐにフォレンジック調査の専門家へ相談してください

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Qilinから組織を守るための予防・防御策

これまで被害後の対応について解説してきましたが、最も重要なのは「被害を未然に防ぐ」ことです。以下の対策を多層的に講じることで、Qilinのような脅威に対する防御力を飛躍的に高めることができます。

フィッシング対策と従業員教育の徹底

Qilinの主な侵入経路はフィッシングメールです。全従業員に対して定期的なセキュリティ教育や標的型攻撃メール訓練を実施し、不審なメールへの警戒心を高めることが、最も費用対効果の高い対策の一つです。

EDRによるエンドポイント監視の強化

侵入後の内部活動や、Rustで書かれたような未知のマルウェアの不審な挙動を検知するために、PCやサーバーの挙動を常時監視する「EDR (Endpoint Detection and Response)」が有効です。

仮想化基盤(ESXi)のセキュリティ強化

企業の心臓部であるESXiホストを守ることは最重要課題です。

  • ESXiホストへのアクセスを厳格に制限し、管理インターフェースを安易にインターネットへ公開しない。
  • 管理者アカウントには、多要素認証(MFA)を導入する。
  • VMwareからリリースされるセキュリティパッチを迅速に適用する。

バックアップ戦略の再構築(オフライン・イミュータブル)

仮想マシンを含む重要なデータは、「3-2-1ルール」に従ってバックアップを取得しましょう。特に、ネットワークから物理的に隔離されたオフラインバックアップや、データの書き換えが不可能なイミュータ-ブルバックアップは、ランサムウェア対策の最後の砦として極めて有効です。

まとめ

本記事では、2024年以降に台頭したランサムウェア「Qilin」について、その手口から被害の実態、そして具体的な対策を詳細に解説しました。

Qilinは、プログラミング言語Rustの採用による高い技術力と、企業の心臓部である仮想化基盤を狙う危険性を兼ね備えた、極めて深刻な脅威です。しかし、その手口を正しく理解し、フィッシング対策といった人的な防御から、EDRやESXiの要塞化といった技術的な防御まで、多層的な対策を講じることで、被害に遭うリスクを大幅に低減させることができます。

自社のセキュリティ対策を今一度点検し、「もしも」の事態に備えたインシデント対応計画を準備しておくことが、事業継続を守る上で不可欠です。

Qilinランサムウェア
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