近年のサイバー攻撃は、単一組織を直接狙うものから、取引関係にある第三者を起点として侵入する「サプライチェーン攻撃」へと大きくシフトしています。
このような状況を受け、取引先を含めたセキュリティ水準の把握・評価は、もはや情報システム部門だけの課題ではなく、経営課題として認識されるようになっています。
本稿では、「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」を軸に、制度の背景、評価の観点、インシデント対応・フォレンジックとの関係、そして企業規模に応じた実践的な対応策について整理します。
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サプライチェーン攻撃の現状とリスク
近年多く確認されているサプライチェーン攻撃では、比較的セキュリティ対策が不十分な中小規模の取引先や委託先が侵入点として悪用されます。攻撃者は、当該組織の認証情報やネットワーク接続を足掛かりに、元請企業や重要インフラへと侵入を拡大します。
このようなサプライチェーン攻撃により重大な情報漏えいや業務停止が発生した場合、直接侵害を受けた企業だけでなく、元請企業や発注元にも説明責任が及ぶケースが増えています。
- 取引先のセキュリティ対策状況を把握しているか
- 一定水準を満たしていることを合理的に説明できるか
といった点が、経営リスク管理の観点から重要視されています。
サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度とは
経済産業省が推進する「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」は、サプライチェーンを起点としたサイバー攻撃の増加を背景に、企業間取引におけるセキュリティ対策水準を共通の物差しで可視化することを目的として検討が進められています。
従来、取引先のセキュリティ対策状況は、個別のチェックシートや独自基準により確認されるケースが多く、評価の粒度や厳格さにばらつきがありました。本制度は、こうした課題を解消し、取引の前提として一定水準のセキュリティ対策が確保されていることを客観的に示す仕組みを提供するものです。
ISO/IEC 27001 や NIST Cybersecurity Framework といった既存の認証とは以下のような違いがあります。
- サプライチェーンリスクに特化している
- 調達・契約での利用を想定している
- 技術・組織・運用をバランスよく評価する
そのため、本制度は「高度な認証取得」を目的とするものではなく、サプライチェーン全体の最低限の安全性を確保するための共通基盤として位置づけられています。
サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度の内容
サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度の内容の最大の特徴は、サプライチェーンを構成するすべての企業に一律の高度な対策を求めない点にあります。
サプライチェーン内での役割や影響度は企業ごとに大きく異なるため、求められるセキュリティ対策水準も段階的に整理する必要がある、という考え方が制度設計の前提となっています。
- サプライチェーン全体の「最低限の安全水準」を明確化する
- 企業の役割・重要度に応じて対策を積み上げる
- 発注側・受注側双方が共通理解を持てる評価軸を提供する
以上が目的です。
評価対象は以下のような領域に整理されています。
| 分類 | 主な内容 |
|---|---|
| 組織・ガバナンス | セキュリティ体制、責任者、方針・ルール |
| 取引先・委託先管理 | 外部接続・業務委託に伴うリスク管理 |
| リスク特定・評価 | 自社および取引に伴うリスク把握 |
| 技術的対策 | アクセス制御、ログ管理、マルウェア対策等 |
| 検知・対応・復旧 | インシデント対応、復旧体制 |
このように、技術対策だけでなく、組織・運用を含めた総合的な対策状況が評価対象となる点が特徴です。
★3〜★5による段階的評価構造と評価方法
サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度では、企業がサプライチェーン内で担う役割や影響度に応じて、セキュリティ対策水準を段階的に評価する仕組みが採用されています。
この評価は、対策の高度さだけでなく、評価方法(自己評価/第三者評価)についても段階的に整理されている点が特徴です。
| 評価レベル | 想定される企業像 | 求められる対策水準 | 主な評価方法 |
|---|---|---|---|
| ★3(Basic) | すべてのサプライチェーン企業 | 最低限の組織的・技術的対策 | 自己評価 |
| ★4(Standard) | 重要情報・システムを扱う企業 | 標準的かつ包括的な対策 | 自己評価+第三者評価の活用 |
| ★5(Advanced) | サプライチェーン中核企業 | 国際標準水準の成熟した対策 | 第三者評価 |
本制度において★3は、すべての企業が最低限満たすべき水準を示しています。この段階では、中小企業やサプライヤーも無理なく対応できるよう、自己評価を基本とした運用が想定されています。
一方、★4および★5は、より重要な役割を担う企業を想定した水準です。これらの段階では、ガバナンスやリスク管理、検知・インシデント対応まで含めた包括的なセキュリティ対策の実装と運用が求められます。そのため、取引上の信頼性や説明責任を確保する観点から、第三者評価の活用が検討されています。
出典:経済産業省「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度構築に向けた中間取りまとめ」
中小企業・サプライヤーに求められる対応
中間取りまとめでは、サプライチェーン攻撃の多くが、セキュリティ対策が十分でない中小企業や下位サプライヤーを起点として発生している現状が指摘されています。一方で、これらの企業に対して大企業と同水準の対策を一律に求めることは、現実的ではないとも明記されています
このため本制度では、中小企業・サプライヤーについては、「最低限のセキュリティ対策を確実に実装する」「企業の役割や取引内容に応じて、段階的に対策を強化」が基本的な考え方として示されています。
多くの中小企業にとっては、★3(Basic)レベルへの対応が実質的なスタートラインとなります。
制度開始までに求められる基本的対応
評価制度の開始に向けて、中小企業・サプライヤーが優先的に取り組むべき対応は、「高度な対策の導入」ではなく、組織として最低限の管理が行われている状態を作ることです。
具体的には、以下のような対応が求められます。
| 対応項目 | 主な内容 | 実務上のポイント |
|---|---|---|
| セキュリティ体制の明確化 | セキュリティに関する責任者・担当者を定め、対応窓口を明確化 | 専任でなくても可。兼務でも「誰が責任を持つか」を明示することが重要 |
| 基本的なルールの整備と文書化 | 情報の取り扱い、ID・パスワード管理、外部接続等のルールを文書化 | 分厚い規程は不要。A4数枚程度でも可。全社共有されていることが重要 |
| アクセス管理・ログ管理の実施 | 利用者権限の整理、主要システムのログ取得・保管 | 不要な管理者権限を減らす。ログは「取っている」だけでなく保管が前提 |
| インシデント初動対応の整理 | 異常検知時の社内連絡先、取引先への報告ルートを明確化 | 手順書がなくても、連絡フローが決まっていれば評価上は有効 |
これらは、比較的限られたリソースでも対応可能であり、★3レベルの中核となる要素です。
出典:経済産業省「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度構築に向けた中間取りまとめ」
制度施行後に求められる継続的対応
制度施行後は、一度対策を整備して終わりではなく、継続的な運用と見直しが求められます。
中小企業・サプライヤーにおいて特に重要となるのは、以下の点です。
- 定期的な自己点検による対策の形骸化防止
- 取引内容や業務範囲の変化に応じたリスクの再確認
- 元請企業との情報共有・役割分担の再確認
取引関係が拡大し、より重要な情報やシステムを扱うようになった場合には、★4レベル相当の対策を部分的に取り入れることも検討対象となります。
中間取りまとめでは、中小企業がすべてのセキュリティ対応を内製で行うことは現実的ではないとされています。
特に、インシデント発生時の詳細調査やフォレンジック対応については、外部専門家の活用を前提とした体制整備が重要とされています。
このような背景から、中小企業においては、フォレンジック(デジタル証拠解析)を自社で完結させるのではなく、外部の専門家と連携する前提で体制を整えておくことが現実的な対応となります。
特にサイバーインシデントが発生した時に活用するフォレンジックは、ログや端末データの保全、侵入経路や被害範囲の特定、再発防止策の検討などを担う専門性の高い分野であり、平時から十分な人材やツールを社内に確保することは、多くの中小企業にとって負担が大きいのが実情です。
そのため、インシデント発生時に迅速な初動対応と客観的な原因分析を行うためには、あらかじめフォレンジック調査を担える外部事業者を把握し、連携方針を定めておくことが重要となります。次節では、こうした観点から、中小企業でも活用しやすいフォレンジック調査会社の特徴と選定のポイントについて紹介します。
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まとめ
サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度の特徴は、サプライチェーンを構成するすべての企業に一律の高度対策を求めるのではなく、企業の役割や影響度に応じて段階的な対策水準を示している点にあります。★3を起点とした評価構造は、中小企業やサプライヤーにとっても現実的な対応を可能とし、サプライチェーン全体の底上げを図る設計となっています。
また、評価制度は単なる認証や格付けを目的とするものではなく、発注側・受注側双方にとっての共通言語として機能することが期待されています。これにより、個別・過剰なセキュリティ要求の抑制や、取引先リスクの合理的な判断が可能となり、サプライチェーン全体の安定性向上につながります。
一方で、中小企業にとってすべての対応を内製で完結させることは現実的ではありません。特にインシデント発生時の詳細調査やフォレンジック対応については、外部専門家の活用を前提とした体制整備が重要となります。評価制度は、こうした現実を踏まえた上で、「何を自社で行い、何を外部と連携するのか」を整理する指針としても活用できます。