事件の概要
2026年10月21日、国に品種登録されているブドウ「シャインマスカット」やブランドイチゴ「桃薫」の苗を無許可で譲渡するなどしたとして、石川県の自営業の男性(61)と福島市の会社員の男性(45)が種苗法違反の疑いで警視庁に書類送検された。
石川県の男性は2025年5月、掲示板にシャインマスカットの苗を1個1500円で譲渡すると投稿した疑いがある。福島市の男性は2025年7月から2026年2月にかけて、桃薫の苗について投稿し、2人に計21株を譲渡するなどした疑いが持たれている。
今回の捜査では、ChatGPTが調査対象の投稿を探す入口として使われた。時事通信によると、警視庁久松署は対話型AI「ChatGPT」を使ったサイバーパトロールで、種苗法違反が疑われる投稿を抽出して調べていた。
その後の捜査では、購入した苗を自宅で増やしていたことや、譲渡の実態などが調べられている。任意の事情聴取に対し、2人は小遣い稼ぎのために出品したとして容疑を認めているという。ただし、投稿から本人の特定に至った具体的な手順や、取引の裏付け方法は、確認した報道では説明されていない。
ChatGPTを活用したサイバーパトロール
今回の事件で注目されるのは、警視庁がChatGPTを活用して、インターネット上の違法行為が疑われる投稿を調査していた点である。
報道によると、捜査員はChatGPTを利用し、種苗法違反が疑われる投稿を検索・抽出していた。その過程で、シャインマスカットや桃薫の苗を無許可で譲渡しようとする投稿が見つかり、事件の発覚につながった。
インターネット上には膨大な量の情報が存在し、人の手だけですべての投稿を確認することは難しい。AIを活用することで、調査対象となる投稿を効率的に絞り込み、捜査員による確認につなげられる可能性がある。
「シャインマスカット」「出品」――一部の報道によると、これらは警視庁の捜査員がChatGPTに入力した言葉だという。捜査員はこうしたキーワードを使って違法性が疑われる投稿を抽出し、苗の無許諾出品・譲渡をめぐる事件の発覚につなげたとされる。「非正規品」といった言葉を入力して投稿を見つけたと伝える報道もある。
では、具体的にどのような操作が行われていたのだろうか。実際の操作方法は報道から確認できないが、ここでは、捜査員がChatGPTのウェブ検索機能を使い、検索結果を確認しながら条件を絞り込んでいったと仮定する。
まずは、検索対象と抽出したい情報を指定する。シャインマスカットや桃薫の苗に対象を絞り、公開されている掲示板や販売ページから、詳しく調べる必要がある投稿を探す。例えば、次のような指示が考えられる。
・公開ウェブ上で、シャインマスカットや桃薫の苗を個人が販売・譲渡している投稿を探してください。
・品種名、価格、投稿日、出品URLに加え、自宅で苗を増殖させたことをうかがわせる記述を整理してください。
・許諾の有無が確認できない場合は「未確認」とし、該当する原文と出典を示してください。
もちろん、「非正規品」という直接的なキーワードでは、サイトに掲載されていない可能性がある。そのため、「シャインマスカット 苗 譲ります」「桃薫 苗 販売」といった検索語を組み合わせるほか、「自宅で増えた苗」「挿し木で増やしました」など、苗の増殖に関する記述を手がかりに探す方法も考えられる。
こうして見つかった候補を、出品URLや該当箇所の原文とともに整理する。例えば、自宅で苗を増やしたことを示す記述がある投稿と、購入した苗をそのまま譲渡しようとしている投稿を分ければ、捜査員はそれぞれの投稿について、何を確認すべきか把握しやすくなる。AIに期待されるのは、品種名の一致だけでなく、出品の経緯をうかがわせる文章を抽出する働きだ。
さらに、検索結果を確認しながら、指示を追加する方法も考えられる。「果実の販売を除き、苗の出品に絞る」「増殖に触れた投稿の原文を示す」「同じURLの投稿をまとめる」といった指示である。検索条件を調整し、候補を絞り込んでいく使い方は、対話型AIの特徴を生かしたものといえる。
一方、捜査員が掲示板のサイト内検索などで投稿を収集し、その本文をChatGPTに読み込ませて分析した可能性もある。この方法なら、投稿の収集を人が行い、AIには品種名や価格、増殖に関する記述などの抽出・整理を任せることになる。報道で明らかになっている情報だけでは、ChatGPTのウェブ検索機能を使ったのか、収集済みの投稿を分析させたのかは判別できない。
いずれの方法でも、AIが抽出した候補をそのまま違法と判断することはできない。候補が絞られた後は、捜査員が元の投稿や取引の実態を確認し、対象品種の登録状況、育成者権者の許諾の有無、苗の増殖や譲渡の経緯などを調べる必要がある。出品文から増殖をうかがわせる記述が見つかっても、それだけで権利侵害が確定するわけではないためだ。
まとめ
仮に今回、こうした運用が行われていたとすれば、ChatGPTの活用価値は、検索条件の具体化、複数の投稿の整理、確認すべき記述の抽出にあったと考えられる。捜査員が検索結果を確認し、それを踏まえて条件を追加する。このやり取りを繰り返すことで、詳しく調べるべき投稿を効率的に絞り込めた可能性がある。
実際にどれほどの時間が短縮され、何件の投稿が調査対象となったのかは、報道からは明らかになっていない。しかし、対話型AIをインターネット上の情報調査に活用し、捜査の手掛かりにつなげた可能性がある点は注目に値する。
今回の事例は、ChatGPTがOSINT(公開情報の収集・分析)を支援するツールとして活用できる可能性も示しているだろう。ただし、その有効性を支えるのは、AIが提示した情報を原文と照合し、事実関係を確認する人の作業である。
近ごろはAIを悪用したサイバー攻撃が懸念されているが、今回の事件は、AIを捜査に活用する可能性を考えるうえでも興味深い事例である。人が目的を定め、得られた情報を検証しながら活用することで、AIは社会の安全を支える手段にもなり得る。AIのリスクだけでなく、こうした「守る側」の活用にも目を向けてもいいだろう。
参考資料 種苗法違反容疑で男2人書類送検=「チャットGPT」で捜査―警視庁(時事通信) / 「シャインマスカット」の苗を無許可出品し譲り渡そうとした疑い 「チャットGPT」での捜査で事件発覚(日テレNEWS NNN)|dメニューニュース(NTTドコモ)/