ウクライナの戦訓に学ぶサイバー電磁波時代の防衛力――ゲートウェイ/アプライアンスで実現する多層防御と可視化の再設計ロードマップ

ウクライナで可視化された「サイバー×電磁波×現場運用」の連鎖

ウクライナ情勢が示したのは、戦場の主戦場が陸海空に加え、サイバー空間と電磁波(Electromagnetic Spectrum:EMS)へ拡張したという事実である。通信妨害、衛星・無線へのジャミング、位置情報の欺瞞、SNSを含む情報戦、そしてそれらと連動するサイバー攻撃は、前線の火力や機動と同等、あるいはそれ以上の決定力を持ち得る。

ここで重要なのは、サイバー攻撃が単独で完結するのではなく、電磁波妨害・心理戦・物理攻撃と組み合わさり、複合的な作戦効果を狙う点だ。通信の妨害や盗聴、測位妨害によって指揮統制を乱し、得られた情報をもとに火力打撃へつなげる流れが典型である。

この環境下では、端末やネットワークが物理的に破壊されなくても「使えない」「信用できない」状態に追い込まれるだけで、部隊行動は著しく制約される。したがって装備の「性能」は、カタログスペックではなく、妨害・遮断・欺瞞・侵害が常態化した環境でミッションをどこまで継続できるかで評価されるべきだ。ネットワークインフラ側、とりわけ境界のゲートウェイやセキュリティアプライアンスは、通信の安定運用と防御の両立を担う“戦闘継続の基盤”として、設計と配備の再点検が不可欠になる。

日本の防衛産業が直面する課題:総点検すべき論点

日本の装備品や関連システムは高品質である一方、サイバー電磁波領域の観点では、産業構造・調達制度・人材・サプライチェーンの各所に改善余地が残る。総点検の中核は「現場運用で機能し続けるために、どこをインフラ側で押さえるか」であり、特にゲートウェイ、UTM、境界防御の設計は、全体のレジリエンスを左右する。

設計思想:平時の安全から「有事の継続性」へ

従来のセキュリティは情報漏えい防止や境界防御中心で語られがちだった。しかし現代戦では侵害を前提に、機能縮退・分離運用・代替通信・再構成によって任務を継続するレジリエンスが重要となる。装備品のソフトウェア定義化が進み、アップデートで能力が変化する以上、脆弱性管理と運用改善を前提にした設計が欠かせない。

このとき境界のセキュリティアプライアンスは、ポリシー適用の一貫性、ログの集約、セグメンテーションの実装点として効果が大きい。多層防御の観点では、エンドポイントの対策が崩れた場合でも、ネットワーク側で不審な通信を遮断・隔離し、被害を局所化する設計が求められる。さらに、任務通信のスループットを落とさずに検査を成立させるには、想定トラフィックに見合う処理性能と、暗号化通信を前提にした可視化の戦略が必要となる。

電磁波環境の厳しさ:ジャミングと欺瞞に耐える実装

GNSS妨害やスプーフィング、ドローンと対ドローン、戦術無線やデータリンクへの妨害は、現場の即応性を奪う。センサーフュージョン、耐妨害波形、周波数ホッピング、指向性アンテナ、代替測位(慣性航法・地形照合・時刻同期の冗長化)など、電磁波を前提にしたアーキテクチャが要る。防衛産業には、電子戦(EW)とサイバーを別々の専門領域として分断せず、統合して評価・設計できる体制が求められる。

一方で、電磁波妨害が通信品質を劣化させるほど、ネットワークは再送や迂回でトラフィックが増え、ゲートウェイに過負荷が集中しやすい。つまりEMS側の厳しさは、サイバー防御の“装置側のスループット要件”を引き上げる。ピーク時でも検査を止めず、必要なら重要系通信を優先させる制御を行えるアプライアンス選定が、実運用の強靭性に直結する。

サプライチェーンとソフトウェア部品表:見える化の不足

装備品のソフトウェアは、OSSや商用ライブラリ、FPGA/SoCのファームウェアなど、多層の依存関係を持つ。侵害がサプライチェーン起点で起きる現実を踏まえると、SBOM(Software Bill of Materials)の整備、署名付きビルド、再現可能ビルド、脆弱性情報との連動、調達要件としてのセキュリティ基準が欠かせない。特に中小の下請け企業に過度な負担を押し付けず、業界横断の共通基盤として支援する政策設計が重要だ。

ネットワーク機器やセキュリティアプライアンスについても同様で、ファームウェア更新の信頼性、脆弱性対応の透明性、ログの完全性と保全が「可視化」の前提になる。ベンダー選定では、製品性能だけでなく、更新サイクル、脆弱性開示と対応スピード、サポート体制、運用設計まで含めた総合力が問われる。

運用と調達:納品して終わりではなく「継続的改善」が主戦力

戦場では脅威が数日単位で変化する。にもかかわらず、装備品のソフトウェア更新が長い承認プロセスに縛られていれば、現場は「安全だが役に立たない」状態になりかねない。必要なのは、DevSecOpsの考え方を防衛向けに適用し、迅速な改修・配布・検証を制度として担保することだ。調達も、要件固定型から、能力を継続的に引き上げる契約(サービス化)への転換が現実的になる。

ここで境界装置は、変更の影響範囲が大きい一方で、運用の中核でもある。ポリシー変更、検知ロジック更新、証明書更新、ログ転送、分離ネットワークへの適用など、運用手順が整備されていないと防御が形骸化する。だからこそ、アプライアンスの運用自動化や設定の標準化、監視の一元化といった「現場で回る仕組み」を含めて調達する視点が欠かせない。

再設計ロードマップ:サイバー電磁波態勢を作り直す実務ステップ

総点検に留まらず、実装可能なロードマップとして段階的に進めるべきだ。防衛省・自衛隊、プライム企業、サプライヤ、研究機関が共通の“地図”を持つことで、投資が散漫になることを防げる。ネットワークゲートウェイを軸に据えると、可視化と多層防御を同時に進めやすい。

現状把握:重要任務と依存関係の棚卸し

最初にやるべきは、装備品単体の脆弱性診断ではなく、任務(ミッション)から逆算したリスク評価である。どの通信が途絶すると作戦が止まるのか、どの測位・時刻同期が単一障害点になっているのか、どのサプライヤ部品が代替不能なのかを、運用部門と技術部門が共同で可視化する。ここで重要なのは「侵害されない」前提を捨て、侵害・妨害下での最低限の任務継続を定義することだ。

あわせて、境界・拠点・車載/艦載など、どこにどのゲートウェイ機能を置くべきかを整理する。通信量、暗号化比率、検査対象、バックホールの制約を棚卸しし、必要なスループットと冗長構成を算出することで、机上の理想ではなく現場の制約に適合した多層防御へ落とし込める。

基盤整備:共通セキュリティ要求と試験環境の標準化

次に、産業界が従うべきセキュリティ要求を、製品カテゴリごとに整備する。SBOM、脆弱性開示・対応SLA、署名・鍵管理、ログ設計、ゼロトラスト前提のアクセス制御、暗号更新方針などを調達要件として明文化する。また、電子戦環境を模した試験(ジャミング、スプーフィング、リンク妨害)とサイバー演習を統合した評価レンジが必要になる。個社で抱えるのではなく、官民共同の基盤として整えることで、サプライヤも参加しやすくなる。

ゲートウェイやセキュリティアプライアンスについては、実トラフィック条件での検査性能(スループット、同時セッション、遅延)、障害時のフェイルオーバー、ログの欠落耐性と保全、運用変更時の検証手順までを試験に含めたい。ベンダー選定は価格やピーク性能だけでなく、実運用の再現性と更新運用のしやすさを評価軸に据えるべきである。

運用実装:SOC/脅威インテリジェンスと前線の接続

防衛産業側にも、平時からの監視・分析・改善が欠かせない。製造業のIT監視に留まらず、製品の運用ログや異常兆候を分析し、脅威インテリジェンスと連動して迅速に改修へ反映する製品SOC的な発想が求められる。現場運用と切り離されたセキュリティでは、戦場の変化に追随できない。情報の扱いには制約があるが、匿名化や分類管理を工夫し、官民で共有できる範囲を拡大すべきだ。

そのためには、境界装置からのログ取得と相関分析を前提に、通信の可視化を標準運用に組み込む必要がある。暗号化通信が増えるほど「見えないこと」がリスクになるため、許容される範囲での復号・メタデータ分析・ポリシー監査を組み合わせ、検知から遮断、隔離までを手順化することが、現場での実効性を高める。

人材と組織:サイバーと電子戦を統合できる設計者を育てる

最大のボトルネックは人材である。サイバー、無線工学、信号処理、組込み、クラウド、オペレーション、法制度を跨いで設計できる人材は希少だ。防衛産業では、製造・品質保証・保全に加えてセキュア開発・脅威分析・電子戦理解を統合できる職能体系が必要になる。大学・高専との連携、実戦的なレンジ訓練、民間セキュリティ人材が参入できる雇用設計など、長期の投資が不可欠だ。

同時に、運用人材がアプライアンスを“設定する人”に留まらず、可視化したデータをもとに防御を改善する人へ進化できる環境が重要である。多層防御は製品導入で完了しない。運用設計、教育、演習、改善のサイクルが回って初めて、境界防御が戦力として機能する。

防衛産業に求められる新しい価値:装備品から「能力提供」へ

ウクライナの戦訓が示すのは、技術の優劣だけではなく、適応速度が勝敗を左右するという現実である。防衛産業は、完成品を納める企業から、脅威の変化に合わせて更新し続ける能力の提供者へ変わる必要がある。サイバー電磁波領域での総点検とは、セキュリティ部署の強化に留まらず、設計・調達・試験・運用・人材を貫く産業構造の再設計に他ならない。

その再設計において、ネットワークゲートウェイ製品とセキュリティアプライアンスは「防御の実装点」として極めて現実的な投資対象である。高いスループットを維持しながら、多層防御で攻撃を遮断し、ログと通信の可視化で状況把握を支える。さらに、ベンダー選定の段階から更新運用と支援体制を評価に入れることで、納品後も改善し続ける態勢を作れる。

日本が抑止力を実効的に高めるには、最先端の装備だけでなく、それを妨害下でも使い続ける仕組み、そして学習して改良し続ける制度が必要だ。サイバーと電磁波を「補助的な領域」とみなす時代は終わった。境界から現場まで、インフラ側の実装を含めた総点検と再設計が、これからの防衛力の土台になる。

CVE-2026-53550
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