企業のセキュリティ整備で総合コンサルファームを選んではいけない理由

はじめに:セキュリティ整備の現実と課題

近年のサイバー攻撃の巧妙化と被害の深刻化により、企業におけるセキュリティ整備の重要性は以前にも増して高まっています。特に、ランサムウェア攻撃やAPT攻撃による大規模なデータ侵害事件が相次ぐ中、経営層はセキュリティ投資の必要性を強く認識し、専門的な支援を求めるケースが急増しています。

しかし、このような状況下で多くの企業が犯している重大な過ちがあります。それは、セキュリティ整備の支援を総合コンサルティングファームに依頼してしまうことです。私がサイバーセキュリティ総研を経営する中で数多くの企業のセキュリティ整備支援に携わってきた経験から断言できるのは、総合コンサルティングファームによるセキュリティ整備支援は、企業に甚大な損失をもたらす可能性が高いということです。(該当しない大手コンサルファームさんも存在すると思いますが私の経験上こういった会社が多いという感想です)

本稿では、実際の事例を交えながら、なぜ総合コンサルティングファームをセキュリティ整備に使ってはいけないのか、その具体的な理由を詳しく解説いたします。

セキュリティ専門コンサルと総合コンサルファームの決定的な違い

まず明確にしておきたいのは、セキュリティ専門のコンサルティング会社や個人のセキュリティコンサルタントと、総合コンサルティングファームは全く異なる存在だということです。

セキュリティ専門のコンサルタントは、長年にわたってセキュリティの実務に携わり、実際のインシデント対応、セキュリティツールの導入・運用、監視体制の構築などの実践的な経験を積んでいます。彼らは技術的な詳細を理解し、現場の課題を把握し、実効性のある対策を提案できます。

一方、総合コンサルティングファームは、あらゆる業務領域に対してコンサルティングサービスを提供する組織です。確かに彼らは優秀なプロジェクトマネジメント能力や分析力を持っていますが、セキュリティという高度に専門的な領域においては、その専門性の欠如が致命的な問題となります

理由①:コンサルティングファームのチームはセキュリティの実務を軽視している

大手コンサルファームからの求人要件が物語る実態

この問題の深刻さは、大手コンサルティングファームから弊社に寄せられる求人やプロジェクト単位でのアサイン相談の内容を見れば一目瞭然です。

実際の求人要件の例

  • 必須要件:コンサルティング会社でのプロジェクトマネージャー経験3年以上
  • 必須要件:クライアント向けプレゼンテーション資料作成経験
  • 必須要件:チームマネジメント経験
  • 歓迎要件:セキュリティ整備の実務経験(あれば尚良い程度)
  • 歓迎要件:セキュリティツールの導入・運用経験

この求人要件を見て、何か違和感を覚えませんか?セキュリティプロジェクトを担当する人材の募集でありながら、セキュリティの実務経験は「あれば尚良い」程度の扱いなのです。これは、総合コンサルティングファームがセキュリティを他の業務改善プロジェクトと同じように捉えていることを如実に示しています。

セキュリティ整備は、単なるプロジェクトマネジメントの問題ではありません。攻撃者の手法、セキュリティツールの特性、ネットワーク構成の複雑性、運用体制の現実的な制約など、豊富な実務経験に基づく深い専門知識が不可欠です。しかし、総合コンサルティングファームのアプローチでは、これらの専門性よりもプロジェクト遂行能力が重視されているのが現実です。

プロジェクト遂行力では解決できないセキュリティの本質的課題

確かに、総合コンサルティングファームのコンサルタントは優秀なプロジェクト遂行力を持っています。スケジュール管理、ステークホルダー調整、資料作成など、一般的なプロジェクトマネジメントにおいては高い能力を発揮するでしょう。

しかし、セキュリティ整備において最も重要なのは、「何をどのように実装すべきか」という技術的判断と実装の実現可能性の評価です。これは、教科書的な知識や一般的なフレームワークだけでは判断できません。実際にセキュリティインシデントに対応し、様々なセキュリティツールを導入・運用し、組織の実情に合わせてセキュリティ体制を構築してきた経験が必要不可欠なのです。

理由②:実務と理論がかけ離れた帰着になりやすい

統合監視基盤整備支援における実例

総合コンサルティングファームの問題点を最も端的に示す事例として、大規模侵害を受けた企業でのケースをご紹介します。

案件の背景

某大企業が大規模なサイバー攻撃を受け、大量の機密情報が流出。再発防止策の整備が急務となり、大手総合コンサルティングファームが支援に入った。

この案件で総合コンサルティングファームが行った「成果」は驚くべきものでした。なんと1年間という長期間をかけて到達した結論が「統合監視を行うべき」という、現在のAIに質問すれば一瞬で得られるような一般論だったのです。

しかも、その結論に至る過程で、以下のような実務上極めて重要な要素については全く検討されていませんでした:

  • 監視体制:24時間365日の監視をどのような人員体制で実現するか
  • 監視ツール:企業の環境と予算に適した具体的なツールの選定
  • 監視範囲:何をどこまで監視するかの具体的な定義
  • アラートハンドリング:検知したアラートをどう分析し、対応するか
  • 運用プロセス:日常的な監視業務の具体的な手順

経営陣の混乱と追加コストの発生

総合コンサルティングファームが残した「統合監視を行うべき」という抽象的な提言は、経営陣に大きな混乱をもたらしました。

第一に、コストの問題です。経営陣は総合コンサルティングファームから「統合監視基盤を整備すべき」という提言を受けていましたが、具体的にどの程度の投資が必要なのか全く把握できていませんでした。弊社が実際の要件を整理し、現実的な見積もりを提示したところ、経営陣が想定していた予算の3倍以上の投資が必要であることが判明したのです。

第二に、統合監視に対する理解の問題です。総合コンサルティングファームは「統合監視」という言葉を使っていましたが、その具体的な定義や範囲について明確に説明していませんでした。そのため、経営陣は統合監視を「既存のセキュリティツールを一つの画面で見られるようにする程度のもの」と誤解しており、実際に必要な本格的な統合監視基盤との間に大きなギャップがありました。

実装フェーズでの深刻な問題

弊社が提案する際に、総合コンサルティングファームが作成した「無駄に複雑で実務にそぐわないセキュリティ整備の方向性」を修正することから始めなければなりませんでした。

具体的には、以下のような問題がありました:

  • 企業の実際のIT環境を考慮しない理想論的な監視アーキテクチャ
  • 運用担当者のスキルレベルを無視した高度すぎる監視プロセス
  • 予算制約を考慮しない過剰な機能要件
  • 他システムとの連携を考慮しない独立した監視基盤設計

これらの問題を修正し、経営陣に正しい理解を持ってもらい、現実的な実装計画を再策定するために、本来不要であった多大な時間とコストが発生しました。結果的に、総合コンサルティングファームの支援によってプロジェクト全体のコストは大幅に増加し、実装開始までの期間も大幅に延長されることになったのです。

業界全体で見られる共通パターン

残念ながら、この事例は決して特殊なケースではありません。弊社では、総合コンサルティングファームが関わった後始末のような形で支援要請を受けるケースが年々増加しています。

共通して見られるパターンは以下の通りです:

  • 抽象的な提言:「セキュリティ強化が必要」「多層防御を実装すべき」等の一般論
  • 実装の丸投げ:具体的な実装方法や運用方法は「次のフェーズで検討」
  • 予算の見積もりミス:現実的なコスト算出ができていない
  • 運用体制の軽視:導入後の運用負荷や人的リソースの検討不足

5. セキュリティ整備で真に必要なこと

実務経験に基づく現実的なアプローチ

セキュリティ整備を成功に導くためには、理論と実務の両方を深く理解した専門家による支援が不可欠です。特に重要なのは以下の要素です:

技術的な深い理解:単にセキュリティフレームワークを知っているだけではなく、実際のセキュリティツールの特性、導入時の課題、運用上の注意点などを実体験として理解していること。

組織の実情への適応力:企業の業種、規模、IT環境、人的リソース、予算制約などの現実的な制約を踏まえた上で、実現可能で効果的な対策を提案できること。

継続的な運用への配慮:セキュリティ対策は導入して終わりではなく、継続的な運用と改善が必要です。運用フェーズでの課題を予見し、持続可能な体制を設計できること。

専門性の重要性

セキュリティは、医療や法律と同様に、高度な専門性を要求される領域です。医療の問題を総合コンサルティングファームに相談する人はいないでしょう。同様に、セキュリティの問題は、セキュリティの専門家に相談すべきなのです。

総合コンサルティングファームのコンサルタントがいくら優秀であっても、セキュリティの実務経験がなければ、現実的で効果的なセキュリティ対策を提案することは不可能です。むしろ、中途半端な知識による提案は、企業にとって大きなリスクとなる可能性があります。

6. まとめ:賢明な選択のために

企業のセキュリティ整備において、総合コンサルティングファームを選択することは、以下の深刻なリスクを伴います:

  • 実務を軽視した理論偏重のアプローチによる実効性の低い対策
  • 専門知識の不足による不適切な技術選択と設計
  • 現実的でない提案による予算とスケジュールの大幅な超過
  • 抽象的な提言による経営陣の混乱と意思決定の遅延
  • 結果的な追加コストの発生とプロジェクト失敗のリスク

セキュリティ整備は、企業の存続に関わる重要な投資です。その投資を確実に成果につなげるためには、豊富な実務経験を持つセキュリティ専門家による支援を受けることが不可欠です。

総合コンサルティングファームの華やかなプレゼンテーションや有名なブランドに惑わされることなく、真にセキュリティの専門性を持った支援者を選択することが、企業のセキュリティ強化と事業継続性の確保につながるのです。

セキュリティは、見た目の華やかさではなく、地道な実務の積み重ねによって構築されるものです。その現実を理解し、適切な専門家を選択していただくことを強く推奨いたします。

セキュリティ整備で総合コンサルファームを利用してはいけない理由
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