ロシアのサイバーセキュリティ企業、カスペルスキーを米連邦通信委員会が「脅威」指定

 アメリカの連邦通信委員会(FCC)がモスクワに本社を置くロシアのサイバーセキュリティ企業カスペルスキーを安全保障上の脅威に指定しました。すでにドイツの連邦情報セキュリティ庁(BSI)はカスペルスキー製ウイルス対策ソフトの使用に対して警告を発しており、ウクライナをめぐる国際情勢がサイバーセキュリティの世界に大きな影を投げかけている状況です。

製品、ソリューションから関連企業まで

 アメリカの連邦通信委員会の決定は、2020年に成立したSNA法(安全で信頼できる通信ネットワーク法)にもとづくもので、同法はアメリカの国家安全保障またはアメリカの安全保障に容認できないリスクをもたらすと見なされる通信機器やサービス等のリストを公開することを定め、アメリカの通信会社がリストに掲載された機器やサービスを公金によって購入することを禁じています。

 2021年以降、FCCのリストにはファーウェイやZTE、ハイテラ、ハイクビジョン、ダーファ・テクノロジーとすべて中国企業の製品やサービスを対象に指定がされてきました。しかし、今回、中国電信(チャイナテレコム)、中国移動(チャイナモバイル)とともに初めて中国以外のロシアのサイバーセキュリティ企業、カスペルスキーがリストに掲載されました。しかも、中国企業についてはすべて製造した機器やサービスが対象であるのに対し、カスペルスキーについては同社が提供しているセキュリティ製品やソリューション、サービスにととまらず親会社、子会社、後継者など関連組織も含めてすべて指定の対象としていることから厳しい措置であることがわかります。

ドイツBSIは同社ウイルス対策ソフトの使用を警告

 米FCCの決定より前にドイツの連邦情報セキュリティ庁(BSI)は、カスペルスキー製ウイルス対策ソフトを使用することに警告を発していました。BSIはカスペルスキーのウイルス対策ソフトに警告を発している理由について「ロシアはウクライナと戦争をしており、ロシアのIT企業は、攻撃的な操作を行ったり、意図に反してシステムを攻撃することを余儀なくされたり、知らないうちにスパイされたり、顧客に対する攻撃のツールとして悪用されたりします。ウイルス対策ソフトウェアのすべてのユーザーは、運営者の影響を受ける可能性がありま、 BSIは、カスペルスキーのウイルス対策ソフトウェアポートフォリオのアプリケーションを代替製品に置き換えることを推奨しています」とウェブサイトで説明しており、カスペルスキー製品を使用することを警告する背景にロシアがウクライナに侵攻して戦争を行っていることがあることを明らかにしています。

 カスペルスキーは1997年にユージン・カスペルスキーらによって設立され、ウイルス対策ソフトの開発、販売のほか、ウイルス解析や脅威インテリジェンスなどの分野でも大きな実績を残しており、2003年には日本に進出し国内には日本法人が置かれています。ドイツBSIの警告を受けてカスペルスキーは「(警告は)カスペルスキー製品の技術的評価に基づくものではなく、政治的理由によって下されたものと考えます。当社は、パートナー様およびお客様に対し、引き続きカスペルスキー製品の品質と完全性を保証します。また、BSIと連携して、BSIの決定の理由について明確にし、BSIおよびほかの規制当局の懸念事項に対処するための手段に取り組む予定です」との声明を出しており、データ処理用のインフラは2018年にスイスに移転しており、グローバルな民間セキュリティ企業であり、ロシアやその他の国の政府とのつながりは一切ないと表明しています。

 カスペルスキーやその製品をめぐっては、かねてよりアメリカやイギリスにおいて政府機関での使用が禁止されるなど対ロシア情勢を反映した措置がとられてきましたが、ウクライナへのロシアの軍事侵攻による経済制裁が強化される中、ドイツでは一般での使用に警告が発せられ、アメリカでは安全保障上の脅威と見なす事態へと至り、改めてサイバーセキュリティが国家や国際情勢と深く関わっている分野だということを実感させられます。

■出典

https://www.fcc.gov/supplychain/coveredlist

https://www.bsi.bund.de/DE/Themen/Unternehmen-und-Organisationen/Cyber-Sicherheitslage/Technische-Sicherheitshinweise-und-Warnungen/Warnungen-nach-Par-7/FAQ-Kaspersky/faq_node.html

https://www.kaspersky.co.jp/about/press-releases/2022_bus17032022

https://atmarkit.itmedia.co.jp/news/200309/17/kaspersky.html

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