国連がサイバー犯罪条約を無投票で採択 2025年にハノイで署名式

 国連総会でサイバー犯罪条約が無投票で採択されたということです。2025年にハノイで開催される式典で署名が開始され、批准国が40カ国に達してから90日後に発効するようです。

欧州評議会発案のブダペスト条約にロシアが「対抗」

 国連のサイバー犯罪条約は2019年12月に条約策定に向けた委員会の設立が決定し、草案が提示されて議論が重ねられてきたところ、2024年7月29日から8月9日にかけて国連本部で開催された国連サイバー犯罪条約案作成交渉のためのアドホック委員会で条約案の合意に至り交渉が妥結、12月24日に開催された国連総会において無投票で採択されました。

 国際的なサイバー犯罪条約はすでに欧州評議会が発案した条約があり、この条約は2001年にブダペストで日本、アメリカ、ヨーロッパ主要国の計48カ国が署名・採択して2004年7月に発効しブダペスト条約とも呼ばれています。この条約は欧米、日本など主に西側各国が批准していて批准国は76カ国にのぼっているようです。サイバー犯罪から社会を保護することを目的としており、コンピュータ・システムに対する違法なアクセス等の行為の犯罪化、コンピュータ・データの迅速な保全等に係る刑事手続の整備、犯罪人引渡し等に関する国際協力等を定める一方、表現の自由や著作権、プライバシーや人権、個人情報の保護、児童の権利などに留意した条約になっているということです。

欧州評議会が主導してきたサイバー犯罪条約に対して、同条約を批准していないロシアなどが国連による包括的な新たなサイバー犯罪条約を提唱、国連サイバー犯罪条約の策定に向けて協議する委員会の設置をめぐり2019年12月に行われた投票では、ブダペスト条約を批准するヨーロッパ各国など60カ国が反対したものの、ロシア、中国、イランなど79カ国が賛成し国連サイバー犯罪条約の策定に向けた委員会が設置されることになりました。ちなみに日本は反対票を投じたということです。

監視強化でプライバシーや人権への懸念も

 欧米が主導し人権やプライバシー等、西側の価値観にもとづいているブダペスト条約に対して、ロシア、中国、イラン、ベラルーシなど欧米各国とは価値観の異なる国々が加わって新たなサイバー犯罪条約の草案が議論されました。サイバーと関わるあらゆる犯罪を条約の対象にして幅広く監視することを求めるロシアや中国などに対して、ヨーロッパの各国やアメリカなどは監視を強化することで人権やプライバシーの侵害につながることへの懸念が強く協議は難航しましたが、最終的に人権の尊重に関する規定などを盛り込む案で合意に至り、本会議で採択されたということです。

 採択を受けて国連は「多国間主義の成功を示したものであり、サイバー犯罪を防止し、対抗するための加盟国の共通の意思を反映したものだ」とする声明を発表しています。国連での新たな国際刑事司法条約の採択は20年以上なかったようですのでサイバー空間における国連の今後の役割を占う意味でもこの条約の各国の対応は気になるところです。特に日本では現在、能動的サイバー防御が政治課題となっているところですので、それと合わせて国連サイバー犯罪条約への対応についても注目していきたいと思います。

■出典

https://news.un.org/en/story/2024/12/1158521

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/soshiki/cyber/index.html

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