AIエージェントが報酬を提示して人間に作業を頼むマーケットプレース「RentAHuman」で、不正なアカウント作成やなりすまし、現実世界での偵察といった悪用目的の求人が出ていたことが、研究者の分析で分かった。論文「Security Risks of AI Agents Hiring Humans: An Empirical Marketplace Study」は2026年2月に論文公開サイトarXivで公開され、ITmedia NEWSが10月29日に紹介した。
AIが人間に作業を頼む仕組み
RentAHumanは、AIエージェントが人間を雇い、物理的な作業を含む現実世界の作業をさせることを目的にしたサイトだ。人間の労働者が登録し、AIエージェントはAPIや、AIと外部ツールをつなぐ仕組み「MCP」を通じて労働者を探したり、報酬付きの作業を掲載したりする。運営側は、開設から2週間で100カ国以上の53万9000人が労働者として登録したと発表している。
303件の求人を分析、6種類の悪用を確認
研究では、2月20日に公開APIを通じて取得した303件の求人を分析した。このうち約33%にあたる99件は、ブラウザではなくAPIキーまたはMCP経由で投稿されていた。研究者は、プログラム経由の投稿が必ずしも自律的なAIによるものとは限らない一方、ブラウザを自動操作するプログラムは見分けられないため、この割合は下限だとしている。
悪用の種類として確認されたのは、次の6つだ。1人あたりの報酬の中央値は25ドルだった。
- メールや金融サービスの不正なアカウント作成
- 採用面接や社内会議に本人になりすまして出席するなど、他人へのなりすまし
- 位置情報付きの写真撮影や特定の人物への接触、電話での聞き取りなど、現実世界での偵察
- SNSのフォロワーや反応の水増し
- 本人確認などの認証をすり抜けるための作業
- 紹介報酬を不正に得るための作業
研究者が7つの簡単な審査ルールを過去の求人に当てはめたところ、52件(17.2%)を検出でき、誤検出は1件だった。研究者は、基本的な対策は実現できるが、現状では行われていないと結論づけている。
影響と背景
これまで、攻撃者が現実世界での作業に人手を集めるには、ダークウェブの掲示板や暗号化されたメッセージなど手間のかかる手段が必要だった。AIエージェントがAPI経由で人間の作業を買えるようになると、偵察やなりすましを攻撃の一部として組み込みやすくなる。
また、ITmedia NEWSによると、303件中300件で、依頼主の種別は「人間」と記録されていた。働く側は、相手がAIであることも本当の目的も知らないまま、不正に加担してしまうおそれがある。AIを使った詐欺については、当サイトでもAI音声による詐欺電話の研究を伝えている。
CSRIからのアドバイス
【押さえるべきポイント】面接や会議でのなりすまし、電話による聞き取りは、従来から企業を狙う手口として知られている。それを実行する人手を安く、素早く集められるようになったことが、今回の研究が示した新しいリスクだ。
【平易な解説】顔の見えない依頼主が、事情を知らない大勢のアルバイトに「写真を撮ってきて」「この会社に電話して」と少しずつ頼むようなものだ。一つ一つは普通の作業に見えても、組み合わせると下調べやなりすましの準備になってしまう。
【今週中にできること】まず、電話やオンライン会議で社内の情報や取引先の情報を尋ねられたとき、相手の身元をどう確認するかを社内で決めておく。次に、オンライン面接では本人確認の手順(身分証の確認や、面接担当者の固定など)を見直す。