厚生労働省は、医療機関の電子カルテ情報を全国規模で共有できるネットワークを整備し、遅くとも2030年度までに全国医療情報プラットフォームの基盤を構築する方針を示した。中小規模の病院や診療所を対象に、国の標準仕様に基づく「標準型電子カルテ」や、インターネット上で情報共有する「クラウドネイティブ型」電子カルテの導入を支援する。普及に向け、導入や運用にかかる費用負担をどう軽減するかが焦点となる。
事案の詳細
現在、電子カルテは医療機関ごとに導入・運用されており、患者の診療情報が施設間で十分に共有されない場面がある。こうした状況を踏まえ、政府は全国的に電子カルテ情報を共有する「全国医療情報プラットフォーム」の整備を進めている。このプラットフォームに接続可能とするため、国の標準仕様に準拠した標準型電子カルテの整備と、その基盤となる電子カルテ情報共有サービスの構築が進められている。
工程表では、2026年冬に電子カルテ情報共有サービスの全国運用開始を目指し、その後段階的にクラウドネイティブ型電子カルテの普及を進め、2030年末までに電子カルテ普及率100%を目標としている。2030年度にも基盤の構築を目指すというのは、個別の医療機関のシステム整備だけでなく、全国で情報をやり取りするための共通の土台として全国医療情報プラットフォームを整備することを意味する。工程表や予算要求に具体的な年度と目標が明示されており、医療DXの中長期ロードマップの中に組み込まれた政策であることが分かる。
一方、普及の条件として「費用軽減がカギ」とされている。厚生労働省は、標準型電子カルテのうち、中小規模の病院や診療所向けのクラウドネイティブ型電子カルテについて、導入費の支援を行う方針で、2027年度予算の概算要求に604億円を計上している。オンプレミス型の電子カルテは診療所で約300万円程度の価格とされる一方、クラウドネイティブ型では50万〜100万円程度に抑えられると見込まれており、導入費の負担軽減とセキュリティ対策の強化を両立できる点がメリットとされている。導入費だけでなく保守・運用、教育など継続的なコストが伴うため、国がシステムの構築費用を負担し、医療機関が電子カルテの改修費用等を負担するなど、イニシャルコストとランニングコストをどう分担するかも検討されている。
影響と背景
全国規模の情報共有網が構築されれば、医療機関の枠を越えた電子カルテ情報のやり取りが可能になり、救急搬送時や患者の転院・紹介時などにおいて、必要な医療情報を迅速かつ正確に参照できるようになる。これにより、重複検査の削減や医療の質・安全性の向上、業務効率化など、医療提供の基盤に大きな影響が及ぶ取り組みとなる。
対象が全国に及ぶ以上、参加する医療機関の規模やIT体制は多様であり、特に中小規模の病院や診療所では、システム更新やセキュリティ対策の投資が負担になりやすい。政府は標準仕様に基づく電子カルテをクラウドベースで提供し、クラウドネイティブ型の利用を通じて、初期費用と運用費用の両面で負担軽減を図ろうとしている。費用負担の軽減と標準仕様への対応が普及策の中核であることが明確に示されており、予算措置や補助金制度の具体化が今後の焦点となっている。
対策・今後の展望
基盤構築の目標時期が示されたことで、医療機関側も標準型電子カルテやクラウドネイティブ型電子カルテへの移行を念頭に置いた段階的な準備が必要になる。普及の鍵として費用軽減が掲げられている以上、今後は導入支援の在り方や、運用を継続できる形での負担の抑制策、クラウド移行に伴う災害対策・セキュリティ対策などが議論の中心となる見通しだ。
- 費用負担の見通しを立てる:導入・移行・運用に関わる費用を整理し、補助金や支援策の対象となる費用と自己負担となる費用を把握した上で、負担が普及の障壁になり得る点を可視化する。
- 参加に必要な要件を確認する:全国医療情報プラットフォームや電子カルテ情報共有サービスへの接続を前提に、院内の電子カルテ運用やネットワーク環境、情報連携の体制、セキュリティ対策が標準仕様に対応できるかを点検する。
- 継続運用を前提に計画する:一時的な導入ではなく、クラウド利用料、保守、更新、障害対応を含めた継続運用の計画を早期に用意し、人的体制や委託先も含めた運用フローを明確化する。
CSRIからの現場アドバイス
【現場で何が起きているか】CSRIが支援する中小組織のMDR運用や診断では、「情報共有の仕組み」以前に、端末の更新遅れや権限管理の棚卸し不足が残りがちです。連携が増えるほど、運用のばらつきがリスクになりやすい点が現場の課題です。この点は医療機関の電子カルテ運用でも共通しており、クラウドネイティブ型の導入によっても、端末やアカウント管理が不十分なままでは安全な情報共有が担保されません。
【平易な解説】例えるなら、病院ごとに別々の鍵で管理していた書庫を、共通の通路で行き来できるようにするようなものです。つまり便利になる一方、通路の使い方や鍵の管理が曖昧だと、思わぬ混乱や管理漏れが起きやすくなります。全国医療情報プラットフォームや電子カルテ情報共有サービスの整備は「通路」を用意する施策であり、その通路を安全に使うためには、各病院が自らの鍵(アカウント・権限・端末管理)を適切に管理することが不可欠です。
【今週中にできること】まず院内で「電子カルテに触れる人・端末・外部連携」を紙でもよいので洗い出してください。次に、担当者へ「権限の付け外し手順」と「運用ルールの保管場所」を共有し、誰が見ても分かる状態に整えることから始めましょう。電子カルテ情報共有サービスやクラウドネイティブ型電子カルテの導入を見据え、現在の運用ルールと権限管理を棚卸ししておくことが、今後の全国的な情報連携に備える第一歩となります。