OpenSSL Project は、ASN.1 のオブジェクト識別子(OBJECT IDENTIFIER)を数値テキスト形式へ変換する処理において、特定の入力により処理時間が大きく増加し、サービス運用妨害(DoS)につながり得る問題を公表している。対象環境では更新などの対策が必要だ。
脆弱性の詳細
公開情報によると、OpenSSL の OBJ_obj2txt() は ASN.1 OBJECT IDENTIFIER を数値テキスト形式に変換する機能を提供しているが、OBJECT IDENTIFIER は複数の番号(サブ識別子)で構成されサイズ制限がないため、サブ識別子の一つが非常に大きい場合に、数値テキストへの変換に非常に長い時間を要する場合がある。この結果、TLS/証明書処理など OpenSSL を利用するサービスで CPU 使用率が高騰し、応答遅延や停止といったサービス運用妨害(DoS)につながる可能性がある。
識別子:CVE-2023-2650。深刻度(CVSS):CVSS v3 基本値 6.5(警告)などが公表されているが、具体的なスコアは利用する評価機関・情報源に従うことが推奨される。
攻撃ベクタ:攻撃者は、非常に大きなサブ識別子を含むなど細工した ASN.1 OBJECT IDENTIFIER を含むデータを送りつけることで、OID 変換処理を極端に重くし、サービスの処理資源を消費させる可能性がある。悪用リスク:直接の情報窃取や改ざんよりも、可用性(サービス継続)への影響が中心となり、公開サーバや多数の接続を受けるシステムほど影響が顕在化しやすい。OBJ_obj2txt() を直接使用するアプリケーションや、メッセージサイズの制限がない OpenSSL のサブシステム(OCSP、PKCS7/SMIME、CMS、CMP/CRMF、TS)を利用するアプリケーションでは、メッセージ処理時の遅延により DoS 攻撃を受ける可能性がある。
影響を受ける製品・バージョン
- OpenSSL 3.0 系(3.0.9 より前のバージョン)
- OpenSSL 3.1 系(3.1.1 より前のバージョン)
- OpenSSL 1.1.1
- OpenSSL 1.0.2(プレミアムサポート対象)
推奨される対策
- 修正版への更新:本問題は OpenSSL 3.0.9(3.0 系ユーザ向け)、OpenSSL 3.1.1(3.1 系ユーザ向け)、OpenSSL 1.1.1u(1.1.1 ユーザ向け)、OpenSSL 1.0.2zh(1.0.2 プレミアムサポートカスタマ向け)などで修正されているため、該当環境はこれらの修正版へ更新する。
- 製品ベンダーの更新提供を適用:OSやアプライアンス、ミドルウェアに同梱される OpenSSL を利用している場合は、各ベンダーが提供する更新(パッケージ更新、ファームウェア更新等)を適用する。ベンダー側で対象バージョンと修正バージョンが整理されているため、その情報に基づき対応する。
- 影響範囲の洗い出し:OpenSSL を直接利用するサーバだけでなく、リバースプロキシ、VPN、メール、監視、バックアップなど、TLS/証明書処理を行う構成要素も含めて該当バージョンの有無を確認する。OBJ_obj2txt() の直接利用有無や、OCSP、PKCS7/SMIME、CMS、CMP/CRMF、TS といったサブシステムの利用状況も併せて把握する。
日本の中小企業が今すぐ取るべき行動
- 優先1:インターネット公開サーバの確認:Web、VPN、メールなど外部から接続される機器・サーバで、OpenSSL 3.0 系・3.1 系、1.1.1、1.0.2 などのうち、修正前バージョンが使われていないかを最優先で棚卸しする。
- 優先2:更新計画の確定と適用:該当があれば、OpenSSL 3.0.9、3.1.1、1.1.1u、1.0.2zh(またはベンダー提供の修正更新)への切替日程を決め、営業時間外などに適用する。
- 優先3:運用監視の強化:更新までの間、CPU 使用率の急上昇や接続数増加、応答遅延を検知できるよう監視・アラート条件を見直す。特に TLS/証明書処理を行うコンポーネントについて、メッセージサイズの異常や処理時間の増加を早期に検知できるようにする。
- 優先4:委託先・クラウドの確認:管理会社や SaaS/クラウド事業者に、基盤で該当 OpenSSL が使われていないか、修正対応状況を確認する。マネージドサービスやクラウド環境では、提供事業者側で OpenSSL を更新している場合もあるため、最新の対応状況を確認することが重要である。
CSRIからの現場アドバイス
実際のペネトレーションテストでは、暗号設定そのものより「ライブラリの古さ」が原因で想定外の DoS が起きるケースが見つかる。診断報告書でよく指摘されるのが、OS 更新はしてもミドルウェア同梱の OpenSSL が残っている状態だ。
例えるなら、電話口で相手がわざと長い質問を続け、窓口担当が処理に追われて他の電話に出られなくなるようなもの。つまり、データを盗むより「仕事を止める」攻撃に使われ、公開サービスほど影響が出やすいということだ。
まず社内の Web/VPN/メール機器やサーバで OpenSSL のバージョンを確認する。次に保守ベンダーへ「CVE-2023-2650 対応として OpenSSL 3.0.9、3.1.1、1.1.1u、1.0.2zh 相当の修正が入る更新の有無」を依頼し、適用日を決める。更新までの間は CPU 高騰のアラートを有効化し、メッセージ処理の遅延や接続数の急増にも注意を払う。
参照: OpenSSL の ASN.1 オブジェクト識別子変換における処理時間遅延の問題(Security Advisory [30th May 2023])
参考:公式情報・アドバイザリ
- CVE-2023-2650: NVD (NIST) / JVN検索
上記は本記事に関連する公式セキュリティ情報です。詳細は各機関の公式サイトをご確認ください。