欧米が立ち上げた新たなウクライナ支援「タリン・メカニズム」とは何か?

 日本でもウクライナ支援に関するニュースはよく報道されています。最近では上川外務大臣のウクライナ訪問が大きくとりあげられていました。しかし、タリン・メカニズムという言葉は聞いたことがありませんでした。タリン・メカニズムとはなんなのでしょうか?

民間領域に関わるサイバー防御をサポート

 タリン・メカニズムとはウクライナのサイバーセキュリティを支援する仕組みを言うようです。エストニアの首都、タリンでこの計画についての会合が開かれたことからタリン・メカニズムと言われているようです。昨年5月に計画は策定され、エストニア、カナダ、デンマーク、フランス、ドイツ、オランダ、ポーランド、スウェーデン、ウクライナ、イギリス、アメリカが参加して昨年12月から取り組みがスタートしました。

 ウクライナでは2022年2月のロシア軍による侵攻以来、ワイパー攻撃をはじめとした様々なサイバー攻撃を受けています。サイバー攻撃により金融機関のATMが使えなくなったり、虚偽情報がネットで流布されるなど市民生活に大きな影響が出ています。最近ではウクライナ最大の通信会社キエフスターに対してサイバー攻撃が行われ、スマホやインターネットが一時的に使えなくなったほか銀行ATMやPOS端末、空襲警報にも影響があったとされています。この攻撃についてはロシアのハッカーグループが犯行声明を出しているということです。

 また、ロシア軍の侵攻以前もウクライナでは大規模なサイバー攻撃が起きており、2015年と2016年には電力インフラがサイバー攻撃を受けて首都キエフで広範囲に停電が発生しました。この攻撃についてもロシアのハッカーグループの関与が指摘されています。タリン・メカニズムは、こうしたウクライナを取り巻くサイバー環境を踏まえ、軍事支援とは別に市民生活に直接影響するインフラ施設等へのサイバー攻撃を防御する取り組みをサポートすることを目的としており、エストニア外務省のウェブサイトは「民間領域におけるウクライナへのサイバー支援を拡大することを目的としたシステムを設立することを決定した。5月30日にタリンで全参加国によってまとめられた計画は2023年12月20日に開始され、このシステムは最初の会合の場所にちなんでタリン・メカニズムと名付けられた」と表明しています。

ウクライナサイバープログラムへの拠出を増額

 ウクライナのサイバーセキュリティへの支援は、イギリスが一昨年、ウクライナサイバープログラム(UCP)への拠出として635万ポンドを表明、これはウクライナの民間部門と公共部門のサイバーセキュリティに対して世界のサイバーセキュリティプロバイダーの専門知識を活用してウクライナの国家インフラと公共サービスを保護する取り組みだということです。タリン・メカニズムの計画が策定された後、昨年6月にイギリスはUCPへの拠出額を2500万ポンドに増額することを表明しました。1600万ポンドをイギリスが資金提供し、900万ポンドは国際同盟国が拠出するということです。

 エストニア外務省のウェブサイトによると、ウクライナのサイバーセキュリティに対してはこれまでさまざまな国家が緊急的にサポートしてきましたが、タリン・メカニズムにより一貫したサポート体制がつくられ、ウクライナのニーズを体系化してサポートが行われるということです。またタリン・メカニズムにはトップテクノロジー企業やNGOも参加し、NATO(北大西洋条約機構)とEU(欧州連合)がオブザーバーになっているということです。

■出典

https://www.vm.ee/en/international-law-cyber-diplomacy/cyber-diplomacy/tallinn-mechanism

https://www.gov.uk/government/news/uk-and-partners-form-the-tallinn-mechanism-for-cyber-security

https://therecord.media/tallinn-mechanism-ukraine-partners-cybersecurity

https://service.toinx.co.jp/tsq/column_005

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