顧客情報は企業にとって極めて重要な資産であり、その不正な持ち出しは信頼の喪失や法的責任に直結する重大なリスクです。とくに、退職者や内部関係者による情報持ち出しは、企業の競争力を損ねるばかりか、刑事・民事のトラブルへ発展するケースも少なくありません。
万が一、顧客情報の持ち出しが疑われる場合、正確な証拠を収集し、法的に対応する準備が不可欠です。本記事では、持ち出しに関する法的リスク、証拠の種類、実際の調査手法、そして再発防止に向けた予防策について、専門的な視点から詳しく解説します。
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顧客情報持ち出しの法的リスク
顧客情報の持ち出しは、情報の性質や行為の態様によってさまざまな法令に抵触する可能性があります。ここでは、想定される主な刑事・民事リスクを解説します。
- 個人情報データベース等不正提供罪
- 不正競争防止法違反
- 窃盗罪・横領罪
- 不正アクセス禁止法違反
- 民事訴訟による損害賠償請求
個人情報データベース等不正提供罪
従業員が顧客名簿などの個人情報を第三者に不正に提供した場合、「不正に取得した個人情報を有償・無償を問わず提供・盗用した者」に対して、1年以下の懲役または50万円以下の罰金(法人に対しては最大1億円の罰金)といった刑事罰が科されることがあります。
とくに企業の顧客リストは「個人情報データベース等」に該当するため、営業先への流出や転職先への持ち込みが発覚した場合には、刑事告発も視野に入れる必要があります。行為者本人だけでなく、企業も管理体制を問われる可能性がある点に注意が必要です。
不正競争防止法違反
顧客情報が営業秘密として管理されていた場合、不正に持ち出して他社で利用する行為は、不正競争防止法の「営業秘密侵害」に該当し、10年以下の拘禁刑または2,000万円以下の罰金(法人は最大5億円の罰金)の法定刑が科されることがあります。例えば、退職者が営業リストを転職先で使った場合、旧所属企業は営業機会の損失として民事損害賠償を請求することが可能です。
営業秘密に該当するには、情報が以下のの3要件を満たす必要があります。
- 秘密管理性(情報が「秘密」として管理されていること)
- 有用性(情報が事業活動にとって有用であること)
- 非公知性(情報が一般に知られていないこと)
法的保護を受けるためには、日頃から情報の管理体制を明確にしておくことが重要です。データを持ち出されてしまった場合は、以下の記事で対応方法を解説しています。
転職者によるデータ持ち出しとは?違法になるケースと企業の正しい対応策>
窃盗罪・横領罪
物理的な紙資料やUSBメモリなどのデバイスに保存された顧客情報を無断で持ち出した場合、それが会社の所有物であれば、10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の法定刑である「窃盗罪」、業務を行う立場を理由に貸与された機器を持ち出した場合には、法定刑が10年以下の懲役の「業務上横領罪」が適用されることがあります。
とくに営業資料や名簿が会社資産として扱われている場合、たとえ退職時でも持ち出しが明らかになれば、刑事告訴の対象となります。
データ化された顧客情報の持ち出しの痕跡を調査するには、フォレンジック調査と呼ばれる電子端末内のデータを調査・解析する調査方法が有効です。持ち出しが疑わしい段階でも実施し、漏洩の有無を判断することをおすすめします。
不正アクセス禁止法違反
退職後に元のアカウントを使用して顧客情報へアクセスした場合、法定刑が3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金である不正アクセス禁止法に違反する可能性があります。とくに、退職後にパスワードが変更されていなかったり、クラウド上の業務システムにアクセスできる状態が続いていた場合、元従業員による情報の閲覧・持ち出しが問題となります。
企業側にはアクセス管理の義務があり、放置されていた場合には管理責任も問われかねません。ログ調査により、アクセス履歴の証拠を残すことが重要です。
民事訴訟による損害賠償請求
顧客情報の不正な持ち出しによって営業機会の喪失や信用失墜といった被害を被った場合、企業は損害賠償を求める民事訴訟を提起することができます。特に営業秘密としての管理実態があれば、不正競争防止法に基づく損害請求が認められる可能性が高まります。
また、損害額の立証には顧客の流出状況や契約喪失の実績、証拠資料が必要となるため、事前の証拠保全と調査が非常に重要です。特にデータ化された顧客情報が漏洩した場合、パソコンやスマートフォンに痕跡が残っている可能性があります。このような痕跡は削除・改ざんが容易なため、専門のエンジニアが在籍するフォレンジック調査会社に調査を依頼することをおすすめします。
顧客情報持ち出しの事例
こちらでは顧客情報持ち出しの事例を紹介します。
2020年9月下旬から12月にかけて、回転寿司チェーン「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイト社の実質トップ層が、前職であるライバルチェーン「はま寿司」(ゼンショーホールディングス)の営業秘密情報を不正に入手・社内に持ち込んだとされる事件です。
情報には食材の仕入れ価格や仕入れ先、日次売上データなどが含まれており、通常は限られた社員しか閲覧できないパスワード付きデータでした。
2023年5月に東京地裁は、不正競争防止法違反(営業秘密侵害)を認定し、元社長に懲役3年執行猶予4年と罰金200万円、商品部長に懲役2年6カ月執行猶予4年と罰金100万円、カッパ・クリエイト社に対しては罰金3,000万円を言い渡しました。
出典:朝日新聞
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顧客情報持ち出しの証拠例
顧客情報の不正な持ち出しに対応するためには、事実を裏付ける証拠の存在が不可欠です。ここでは、実務で活用される3つの証拠分類について解説します。
- 物理的証拠(書類・端末)
- 関係者の証言
- デジタル証拠(ログ・履歴)
物理的証拠(書類・端末)
紙の名簿、USBメモリ、ノートパソコン、外付けHDDなど、情報が格納された物理的媒体は、直接的な証拠となり得ます。退職者の手元に会社の備品や資料が残っていた場合、物理的な占有の事実が確認されれば、窃盗や横領としての立件も可能です。
また、印刷履歴や持ち出し経路の確認も重要な要素となります。証拠性を保つためには、対象物の写真撮影や封印保全など、証拠管理手順の遵守が求められます。
関係者の証言
上司や同僚など、関係者からの証言も重要な証拠となります。たとえば、「○○さんがUSBを使っていた」「個人アドレスに転送していたのを見た」など、目撃情報や会話の内容が客観的証拠と整合することで、持ち出しの意図や計画性を裏付ける手がかりとなります。
ただし、証言は主観的で信憑性が争点となることもあるため、録音・記録の有無や、他の証拠との突き合わせが重要です。
デジタル証拠(ログ・履歴)
実務で最も重視されるのが、操作ログや通信履歴などの「デジタル証拠」です。たとえば、USB接続履歴、ファイルアクセスログ、クラウドへのアップロード記録、メール送信ログなどは、誰が・いつ・どこから・何をしたのかを明確に示す技術的証拠になります。
これらは改ざんされるリスクがあるため、早期に専門家によるフォレンジック調査で保全・解析することが重要です。客観性が高く、訴訟にも耐え得る証拠として活用されます。
顧客情報の持ち出し調査方法
顧客情報の不正持ち出しが疑われる場合、迅速かつ正確な調査が不可欠です。特に、証拠能力を損なわない方法で調査を実施することが重要です。ここでは、専門的な「フォレンジック調査」について解説します。
フォレンジック調査とは
フォレンジック調査とは、パソコンやスマートフォン、サーバーなどに残された操作ログやファイル履歴、通信履歴を科学的・技術的に分析する調査手法です。USBの接続履歴、削除ファイルの復元、メールやクラウドへの転送記録など、持ち出しの証拠を客観的に抽出できます。
調査では証拠の信頼性を確保するため、電源の保持・データの保全・解析の手順が厳格に定められており、民事・刑事双方の訴訟対応にも活用可能です。内部調査では限界のある領域も多いため、持ち出しが疑われた時点でフォレンジック調査の専門会社に相談することが効果的です。
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編集部おすすめ調査会社:デジタルデータフォレンジック(おすすめ度)
こちらのフォレンジック調査会社は、対応件数が39,000件を超え、民間の調査会社でありながら官公庁や大手企業との取引実績も多く信頼できるため、幅広い調査に対応していておすすめです。
まずは無料で相談・見積りまで行ってくれるようなので、不安な方は一度相談してみるとよいでしょう。

費用 | ★見積り無料 まずはご相談ください |
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調査対象 | PC、スマートフォン、サーバ、外付けHDD、USBメモリ、SDカード、タブレット など |
サービス | 情報持出し調査、退職者調査、ハッキング・不正アクセス調査、マルウェア・ランサムウェア感染調査、サイバー攻撃被害調査、労働問題調査、社内不正調査、、横領着服調査、パスワード解除、データ改ざん調査、データ復元、デジタル遺品、離婚問題・浮気調査 など |
特長 | ✓累積ご相談件数39,000件以上 |
デジタルデータフォレンジックは、国内トップクラスの調査力を有しており、累計3万9千件以上の豊富な実績があります。
規模が大きな調査会社でありながら、情報持出し調査や退職者調査などの実績もあるようですし、24時間365日の相談体制、ニーズに合わせたプランのカスタマイズなど、サービスの利用しやすさも嬉しいポイントです。
相談・見積りを“無料“で行っているので、まずは電話かメールで問合せをしてみることをおすすめします。
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顧客情報持ち出しの予防策
顧客情報の不正持ち出しは、事後対応だけでなく、事前の予防策によって大きくリスクを軽減できます。ここでは実効性の高い社内対策を紹介します。
- アクセス制限の強化
- 端末の多要素認証の導入
- 退職者のアクセス権限とアカウントを削除する
- 従業員のログ管理を行う
- 従業員と機密保持契約を必ず締結する
アクセス制限の強化
機密性の高い顧客情報へのアクセスは、必要最小限の従業員に限定するに基づき設計すべきです。特にCRMやファイルサーバなどでは、閲覧・編集・ダウンロードといった操作レベルごとの権限制御を行うことで、不正行為の発生リスクを低減できます。
また、退職者や異動者のアクセス権限が放置されていないか、定期的に棚卸・見直しを行うことが重要です。
端末の多要素認証の導入
業務端末やクラウドサービスへのアクセスには、多要素認証(MFA)の導入が必須です。ID・パスワードだけでなく、スマートフォンや生体認証を併用することで、なりすましや不正アクセスの防止につながります。
特にリモートワーク環境下では、パスワードのみの認証では不十分なため、企業として強制適用を行うことが望ましいでしょう。
退職者のアクセス権限とアカウントを削除する
退職後も元従業員のアカウントがアクティブなまま放置されているケースは珍しくありません。これにより、外部から社内情報へのアクセスが継続して行われるリスクが生じます。
退職者に対しては、最終出社日をもって速やかにアカウント削除・権限剥奪を行い、持ち出しリスクを遮断する必要があります。また、退職前後のファイル操作ログを確認する体制も整えておくとより効果的です。
従業員のログ管理を行う
操作ログの取得と監視は、内部不正の抑止と早期発見に不可欠です。ファイルアクセス・USB接続・メール送信・クラウド転送など、重要な操作にはログを残す設計とし、異常行動が検知された際には自動でアラートが出る仕組みを導入しましょう。
SIEMやEDRなどのツールを用いれば、効率的かつ継続的な監視体制が構築できます。記録されたログは、証拠としても活用できます。
従業員と機密保持契約を必ず締結する
入社時・退職時には、機密保持契約(NDA)を徹底して締結しましょう。この契約には、在職中および退職後の機密情報の取り扱いに関する禁止事項と、違反時の損害賠償責任などを明記します。
明文化された契約があることで、万一の情報漏洩時にも民事対応を有利に進めることができ、社内抑止力としても効果を発揮します。
まとめ
顧客情報の持ち出しは、企業にとって重大なインシデントであり、信用・法的責任・営業機会すべてに悪影響を及ぼすリスクをはらんでいます。発覚時には、証拠の保全とフォレンジック調査による客観的な裏付けが不可欠です。
疑わしい兆候があれば、早期のフォレンジック調査を行い、顧客情報がどこまで漏洩しているか把握しましょう。