メールアドレスを検索して得た情報を基に、大規模言語モデル(LLM)で受信者ごとのフィッシングメールを生成する手法が実験で検証された。ドイツのベルリン工科大学などの研究者らによる研究では、大学職員7741人を対象に実験を行い、一般的な一斉配信型フィッシングのクリック率3.9%に対し、LLMで生成したスピアフィッシングのクリック率は10%だった。従来の手法に比べ、クリック率は2.74倍に増加したという。
事案の詳細
今回のニュースは、メールアドレスを手掛かりに受信者に関する情報を集め、その内容に合わせてLLMでフィッシングメールを生成する手法の有効性が、大規模な実験で検証されたという点にある。研究報告の題名は「A Large-Scale Study of Personalized Phishing using Large Language Models」。ドイツのベルリン工科大学などに所属する研究者らが発表した。
標的ごとに文面を作り込むフィッシング攻撃は「スピアフィッシング」と呼ばれる。研究チームは、大学職員7741人を対象に、AIによるスピアフィッシング攻撃の影響力を調べる実験を実施した。
手口として示されたのは、まずメールアドレスを検索し、そこから得られる情報を材料にする流れである。次に、その情報を基にLLMが受信者ごとの文面を生成し、個人に関係があると感じやすい内容のメールに仕立てる。全員に同じ文面を送る一般的なフィッシングメールと比較したところ、一般的な手法のクリック率は3.9%、LLMで生成したスピアフィッシングのクリック率は10%だった。論文では、従来の手法よりクリック率が2.74倍に増加したとしている。
同じ実験では、専門家が手作業で作ったスピアフィッシングのクリック率は24.2%で、LLMによる自動生成はまだ人手に及ばなかった。一方で、LLMは約4,000通の個別メールを約50時間で作成し、1通あたりの費用は約0.03ドルだった。大学のメールフィルターで3,949通を検査したところ、不審と判定されたのは1通だけだったという。研究はセキュリティ分野の国際会議USENIX Security Symposium 2026で発表される。
影響と背景
個人に合わせたフィッシングが成功しやすくなると、従来の「定型的な文面だから気づける」という前提が崩れやすい。メールアドレスを起点に情報を集め、LLMで文章を生成する流れは、受信者ごとの差分を大規模に作成しやすい点が特徴で、攻撃側の自動化や効率化につながり得る。
今回の研究は、LLMが生成するスピアフィッシング攻撃を自動かつ大規模に展開した場合の効果を検証したものだ。個別の情報を含む自然な文面であっても正当な連絡とは限らず、文章の自然さや自分に関係する内容だけで安全性を判断することは難しくなる。
対策・今後の展望
- メール本文の自然さだけで判断しない:文章が丁寧で不自然さが少なくても、リンクを押す前に差出人や誘導先を確認する。重要な依頼は、メールに記載された連絡先ではなく、公式サイトや既知の連絡先から別経路で確認する。
- 「自分向け」に見える要素を警戒する:氏名や所属、業務に関係する言葉が含まれていても、情報がどこから得られたのか分からない場合は特に慎重に扱う。
- クリック前の確認手順を組織で統一する:受信者ごとに判断がばらつかないよう、差出人、リンク先、依頼内容、送信者への確認方法をあらかじめ定める。疑わしいメールを報告できる窓口も設ける。
CSRIからの現場アドバイス
【観点①:現場で何が起きているか】CSRIが支援する中小企業のMDR運用では、メールを起点に「利用者がリンクを開き、外部サイトへ遷移する」前段の挙動が頻出する。診断でも、差出人確認やリンク確認の社内ルールが未整備のまま放置され、属人的判断になっている例が多い。
【観点②:平易な解説】例えるなら、宛名だけでなく「あなたの関心ごと」まで書かれた手紙が届くようなものだ。見覚えのある言葉や業務情報が含まれていても、それだけで正規のメールとは判断できない。LLMは、受信者に合わせたもっともらしい文面の作成を自動化できる。
【観点③:今週中にできること】まず社内で「リンクは押す前に差出人と宛先、誘導先を確認する」ことを文章で共有し、全員の手順を揃える。次に、業務上よく届く連絡を装うメールの例を集め、総務や情シスが注意点を短く周知する。最後に、怪しいメールを転送できる窓口を決める。
参照: メアドを検索→AIで“その人専用フィッシングメール”を生成する手法、クリック率が約2.7倍に 7000人以上で実験