米マイクロソフトの脅威分析チームは2026年8月4日、ロシアの対外情報庁(SVR)と関連があるとされるサイバー攻撃グループによる新たな攻撃キャンペーン「CaptiveCrunch(キャプティブクランチ)」の詳細を報告した。
この事案は、ホテルや会議場などの公衆Wi-Fi設備そのものを乗っ取り、世界中の出張者から企業の認証情報などを盗み出す「現在進行中」のサイバースパイ活動とされており、分析にはAI開発企業のAnthropic(アンスロピック)社やOpenAI(オープンエーアイ)社も協力している。
攻撃の背景と標的
攻撃を行っているのは、「Storm-2945(ストーム-2945)」と呼ばれるグループで、主に政府機関などを狙って長期的な情報収集を行うロシア拠点のハッカー集団「ミッドナイト・ブリザード」(別名:APT29、Cozy Bear)の下部組織とされている。
このキャンペーンは特定の国にとどまらず、米国、インド、サウジアラビア、欧州など世界規模で展開されている。
主な標的は「世界中の出張者(ビジネス・トラベラー)」であり、特に政府・外交関係者、防衛産業、IT企業、エネルギー企業、金融機関、法律事務所、医療機関などの利用者が狙われる可能性が高いと分析されている。
Wi-Fi設備そのものを乗っ取る巧妙な手口
今回の攻撃の最大の特徴は、利用者のパソコンを直接狙うのではなく、ホテルやカンファレンスセンターなどの公衆Wi-Fi設備(ゲートウェイ)に侵入する点だという。
攻撃者は、公衆Wi-Fiに接続する際に表示される「キャプティブポータル(利用規約への同意などを求める認証・ログイン画面)」を悪用するとされており、2026年2月頃から生成AIを活用した攻撃の準備が確認され、5月上旬から本格化している。
攻撃者はネットワークを掌握したうえで、DNS(ドメイン名をIPアドレスへ変換する仕組み)を書き換えたり、HTTP通信(ウェブサイトを閲覧するための通信)を改ざんしたりする。
これにより、利用者を正規の画面ではなく、「偽のMicrosoft 365ログイン画面」や「偽のブラウザ・OS(オペレーティングシステム)の更新画面」へと強制的に誘導するというもの。
偽の更新画面では、「クリックフィックス(偽の警告などで利用者を騙し、クリック操作を促してウイルスを感染させる手法)」が用いられ、以下のようなマルウェア(悪意のあるソフトウェア)が配信される。
| ・CornFlake(コーンフレーク) Windowsパソコンを外部から自在に操る「遠隔操作型トロイの木馬(RAT)」。キーボードの入力履歴の窃取(キーロギング)、画面の撮影(スクリーンショット)、マイクやWebカメラを通じた音声・映像の盗聴・盗撮、ファイルの持ち出しなどの機能を備える。 |
| ・ChocoShell(チョコシェル) パソコンのメモリ上で動作する情報窃取ツール。ブラウザのセッションクッキー(ログイン状態を保持するデータ)や、Microsoft 365などの「SSOトークン(一度の認証で複数サービスを利用できるデータ)」、Wi-Fiのパスワードなどを盗み出す。 |
また、一部ではAndroidスマートフォン向けの「APKファイル(アプリのインストール用ファイル)」が配信された形跡や、Microsoft Entra ID(クラウド認証サービス)の正規の認証コード入力画面を悪用して利用者にコードを入力させることで、攻撃者側にログイン権限を発行させる詐欺手法(デバイスコードフィッシング)も確認されている状況が報告されている。
先行してこの活動を指摘したセキュリティ企業「ReliaQuest」は、攻撃の主目的が企業アカウントへのアクセス権を獲得し、情報収集を進めることだと分析している。
なお、各施設のWi-Fi設備への初期侵入経路については現在も調査中だが、キャプティブポータルを提供する共有サービスへの不正アクセスが関与している可能性が指摘されている。
被害状況と利用者への推奨対策
現時点において具体的な被害人数、情報流出の件数、詳細な国名・施設名、日本国内での被害の有無は公表されておらず、ランサムウェアによる被害や業務停止などは確認されていない。
マイクロソフトは、ホテルや空港などのゲスト向け公衆Wi-Fiについて「信頼できるものと前提にすべきではない」と強く警告。
出張者や企業に向けた主な防衛策として、以下を推奨している。
| ・可能な限り、スマートフォンのテザリングや携帯電話回線(eSIMなど)といった私的な接続手段を優先する。 ・公衆Wi-Fiの接続画面(キャプティブポータル)を経由して、ソフトウェアの更新やインストールを絶対にしない。 ・VPN(通信を暗号化する仮想プライベートネットワーク)を利用する。 ・予期せず表示されたMicrosoft 365のログイン画面やブラウザ更新画面で、安易にパスワード等を入力しない。 ・MFA(パスワードとスマホ等の複数要素で本人確認する多要素認証)を有効化し、不要なデバイスコード認証を制限する。 ・公衆Wi-Fi利用時は、HTTPS接続(暗号化された安全なウェブ接続)になっているか、ブラウザの証明書警告が出ていないかを確認する。 |
【参考】
https://www.microsoft.com/en-us/security/blog/2026/07/31/captivecrunch-midnight-blizzard-targets-travelers-worldwide-for-malware-delivery-and-credential-theft/
https://thehackernews.com/2026/08/hijacked-hotel-wi-fi-pushes-fake.html
https://www.bankinfosecurity.com/travelers-beware-russian-intel-hacking-hotel-wi-fi-a-32405