近年、従業員による会社データの不正な持ち出しが社会問題となっています。退職や転職、業務の持ち帰りを口実に、顧客情報・技術資料・内部文書などが外部へ流出し、企業に多大な損害を与えるケースが後を絶ちません。
本記事では、情報持ち出しが発覚した際に企業が取り得る処分の内容や、主な手口、発覚後の対応フロー、証拠の確保方法、再発防止のための対策までを、社内不正調査の専門的な視点からわかりやすく解説します。
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会社のデータ持ち出しで想定される処分内容
会社のデータ持ち出しで想定される処分内容は以下の通りです。
- 懲戒処分・懲戒解雇
- 損害賠償請求
- 刑事告訴
懲戒処分・懲戒解雇
従業員が会社の許可なく機密データを持ち出した場合、それは重大な規律違反と見なされ、就業規則や社内規定に基づき懲戒処分の対象となります。懲戒処分には「けん責」「減給」「出勤停止」「諭旨退職」「懲戒解雇」など複数の種類があり、行為の悪質性や会社への影響度に応じて適用されます。
中でも懲戒解雇は最も重い処分であり、退職金が支払われない場合があるほか、履歴書に記載が必要になるなど、将来的な再就職に深刻な影響を及ぼす可能性があります。また、企業側が「懲戒解雇」という厳罰を適用するには、就業規則上に明確な定義があり、かつ事実関係を裏付ける客観的な証拠が揃っていることが必要です。
たとえば以下のようなケースは、懲戒解雇が検討される可能性が高いと言えます。
- 顧客情報や設計データなどの機密資料を無断でUSBやクラウドに保存・持ち出した
- 持ち出したデータを競合他社へ提供した
- 上司の指示に反して意図的にデータを持ち出した
こうした行為は、単なるミスや注意不足では済まされず、「情報管理義務違反」として正式な懲戒事由に該当します。企業としては、後の法的トラブルを回避するためにも、事情聴取、証拠保全、処分理由の記録など、適正な手続を踏んだ上で慎重に判断する必要があります。
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損害賠償請求
機密データの持ち出しによって企業が実際に損害を被った場合、加害従業員に対して損害賠償請求を行うことが可能です。たとえば、顧客情報や設計図などが流出し、取引停止や企業イメージの失墜などの損害が発生した場合には、民事訴訟により数百万円〜数千万円規模の賠償命令が下されることもあります。
ただし、損害賠償には、「誰が・何を・どのように」持ち出し、「どのような損害」が発生したかを明確に立証する必要があり、専門家による調査や証拠収集が不可欠です。
刑事告訴
機密情報の不正持ち出しは、刑法、不正競争防止法、個人情報保護法などに違反する可能性があり、企業は加害者に対して刑事告訴を行うことができます。特に、意図的に情報を持ち出し、競合他社に提供するなど悪質な場合には、営業秘密の不正使用として不正競争防止法に基づき、「10年以下の拘禁刑または2000万円以下の罰金」が科されることもあります。
刑事事件として立件するためには、違法性の証明と共に、フォレンジック調査などを通じた精度の高い証拠の収集が求められます。法的対応を誤れば、逆に訴訟リスクも生じるため、慎重な判断と専門家の関与が必要です。
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データ持ち出しの主な手口
会社のデータ持ち出しに使われる主な手口は以下の通りです。
- USBメモリや外付けHDDにコピーする
- クラウドストレージにデータをアップロードする
- 私用のメールアドレスに送信する
- テレワーク中の不適切な操作やPC設定
- チャットツール・SNSを経由した送信
USBメモリや外付けHDDにコピーする
社内で最も多く確認されているのが、USBメモリや外付けハードディスク(HDD)を使ってデータをコピーする方法です。従業員が業務中に自席のPCへこれらのデバイスを接続し、フォルダ単位でデータを持ち出すケースが後を絶ちません。
特に、物理デバイスの接続を制限していない企業では、セキュリティポリシーが形骸化しており、簡単に情報漏えいが発生するリスクがあります。これを防ぐには、USBポートの利用制限やログ取得機能など、技術的な対策の導入が不可欠です。
クラウドストレージにデータをアップロードする
GoogleドライブやDropboxなどのクラウドストレージを使ったデータ持ち出しも、近年急増しています。ブラウザ経由で簡単にファイルをアップロード・共有できる利便性は、そのまま情報漏えいリスクの拡大にも直結します。
特に問題なのは、社用PCから私用アカウントにログインして操作するケースで、会社側がアクセス状況を把握・制御しにくくなります。このようなリスクに対しては、クラウドサービスの利用制限やWebフィルタリングの導入が効果的です。
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私用のメールアドレスに送信する
業務用データを私用メールアドレス宛に送信する行為も、典型的な情報持ち出し手口の一つです。たとえば、顧客リストや設計資料などをGmailやYahooメールなどに転送し、自宅や外部デバイスからアクセスすることで、社外での不正利用が可能になります。
特に、送信ログの監視体制が不十分な企業では、本人に悪意がなくても重大な漏えいにつながる恐れがあります。定期的なログ監視と不審な送信の検知体制が必要です。
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テレワーク中の不適切な操作やPC設定
テレワーク環境では、業務用PCを自宅で使うことが多く、社内と同等のセキュリティ管理が難しいことから、情報漏えいのリスクが高まります。
- 家族とPCを共有する
- VPNを介さずに業務データへアクセス
- スクリーンショットを個人端末に保存する
このようなリスクに対処するには、端末制御・リモート監視・アクセスログの取得など、テレワーク環境に適したセキュリティ対策が求められます。
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チャットツール・SNSを経由した送信
Slack、LINE、X(旧Twitter)などのチャットツールやSNSを通じたデータ送信も、現代特有のリスクです。業務資料のPDFファイルやキャプチャ画像などが、個人間で手軽に、かつ匿名性をもって外部へ送信される危険性があります。
加えて、チャットログが容易に削除できる仕様であることから、証拠が残りにくく、追跡が困難になるという問題もあります。こうしたリスクに対応するには、チャットツールの利用制限や送信ログの監視体制の整備が重要です。
以上がデータ持ち出しの主な手口です。このようなデータ持ち出しの証拠は、業務用端末などのログに残されている場合がありますが、法的対応に使用する場合の証拠は客観性が求められるため、専門家に相談することをおすすめします。
社内でデータ持ち出しが発覚した場合の流れ
会社のデータ持ち出しを対策するには以下の方法が重要です。
- 社内で証拠を収集する
- 社員に懲戒処分を下す
- 内容証明郵便で報告
- 賠償金の請求
- 悪質な場合は刑事告訴を行う
社内で証拠を収集する
データの不正持ち出しが疑われる場合、最初に行うべきは証拠の保全と事実確認です。社内の監視カメラのデータや、機密文書が既定の枚数あるかなど確認しましょう。
一方で、業務用パソコンなどのアクセスログ、ファイル操作履歴、メールの送信記録、USB接続履歴などを確認し、「誰が」「いつ」「どのデータに」「どのように」アクセスしたのかを明らかにすることも重要です。
しかし、端末上のデータは改ざんや削除が簡単なため、証拠収集を行う際は専門のフォレンジック調査会社に依頼して、適切な手順で実施することが望ましいです。
社員に懲戒処分を下す
証拠が揃い、不正な持ち出し行為が明確になった場合は、就業規則に基づいて懲戒処分を行います。
軽微な過失であれば「戒告」や「減給」、故意性や悪質性が認められる場合は「出勤停止」や「懲戒解雇」など重い処分が検討されます。
処分は、社内規定や就業契約に則った正式な手続を経て実施することで、本人からの異議申し立てや訴訟への発展を回避できます。あわせて、処分内容を社内へ周知することで、再発防止への強いメッセージを伝える効果も期待されます。
社員が退職済みの場合は弁護士に相談する
データ持ち出しが発覚した時点で既に社員が退職済みの場合、速やかに弁護士へ相談しましょう。内容証明郵便による警告や損害賠償請求、刑事告訴の準備など、状況に応じた法的対応を進めていきます。証拠の不備や対応の遅れが不利になる可能性があるため、専門家の支援が不可欠です。
内容証明郵便で報告
不正行為が明確になった場合、本人や元社員に対して正式な抗議や通知を行う手段として、内容証明郵便が有効です。
これは、「誰に・いつ・どのような内容を送ったか」を公的に証明できる文書であり、損害賠償請求や訴訟時に証拠資料として活用されます。
たとえば、「貴殿が不正に持ち出した機密情報について確認されたため、直ちに返還を求める」といった内容を送付し、対応履歴を記録として残しておくことが重要です。
賠償金の請求
持ち出された情報によって実害が発生した場合は、加害者である元社員に対して損害賠償請求を行うことができます。実損額の算定や、企業の信用失墜に伴う間接的損害なども含めて請求できる可能性がありますが、いずれにせよ客観的な証拠と損害根拠の提示が必要です。請求前に弁護士などの専門家と連携し、法的な裏付けを整理しておくことが重要です。
悪質な場合は刑事告訴を行う
持ち出し行為が明確に故意に基づき、競合他社への情報提供や業務妨害の疑いがある場合、刑事告訴の対象となります。
証拠が整っていれば、不正競争防止法(営業秘密の侵害)や業務妨害罪(刑法)に基づいて立件される可能性があります。
刑事告訴が受理されれば、警察や検察による捜査が開始され、加害者に対する懲役刑や罰金刑が科されることもあり得ます。早めに法的対応を行ってもらうためにも、データ持ち出しの疑いがある場合は、早めに専門家と協力し、データの持ち出しがないか調査してもらいましょう。
データ持ち出しを行った社員の処分には明確な証拠が必要
情報持ち出しに対して懲戒処分や損害賠償、刑事告訴を行うには、法的に有効な証拠の確保が不可欠です。証拠が不十分なまま処分を下せば、不当解雇とみなされ逆に訴えられるリスクもあります。
そのため、持ち出しの経緯や使用された手段(USB、メール、クラウドなど)、関与したファイルの特定といった詳細を、客観的に記録・保存しておく必要があります。とくに、削除されたログや痕跡を含むデジタルデータを正確に復元・解析するには、フォレンジック調査の活用が有効です。
フォレンジック調査とは
フォレンジック調査とは、パソコンやサーバーなどのデジタル機器に残る操作履歴・ログ・削除ファイルなどを科学的手法で復元・分析する専門調査です。
不正の痕跡が消された場合でも、特殊なツールを使って証拠を復元し、誰が・いつ・どのように情報を持ち出したのかを解析します。調査結果は裁判資料としても活用できることがあり、懲戒処分や損害賠償請求の法的裏付けになることがあります。社内調査で限界を感じた場合は、外部の専門会社に相談するのが賢明です。
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会社におけるデータ持ち出し対策
会社のデータ持ち出しを対策するには以下の方法が重要です。
- 外部ストレージの使用制限・禁止
- アクセス権限を最小限に設定する
- 業務用端末のログを保存する
- 機密情報には暗号化やパスワードの設定を行う
- セキュリティソフトを導入する
外部ストレージの使用制限・禁止
情報持ち出しを未然に防ぐためには、USBメモリや外付けHDDなどの外部ストレージ機器の使用を制限または禁止するのが効果的です。たとえば、社用PCでの外部デバイスの接続を物理的またはソフトウェア的に無効化する設定を行えば、不正コピーのリスクを大幅に減らすことが可能です。また、一部のデバイスのみ許可し、それ以外を自動ブロックするような制御ソリューションの導入も有効です。
アクセス権限を最小限に設定する
全社員がすべての情報にアクセスできる状態では、不正のリスクが高まります。業務上必要な範囲に限ってアクセス権限を設定する「最小権限の原則」を徹底することで、重要データへの不要な接触を防げます。たとえば、管理部門の社員が技術資料や顧客リストにアクセスする必要はありません。部署・職務ごとに適切な閲覧権限を設計し、定期的に棚卸しすることが重要です。
業務用端末のログを保存する
社員の業務用PCや社内サーバーの操作ログを自動的に保存・管理することで、不正行為の早期発見や証拠確保が可能になります。ログには、ファイルのコピー・削除・アクセス履歴、USB接続、メール送信記録などが含まれます。これらの情報は、万が一不正が発生した際の原因特定や処分判断に役立ちます。加えて、ログの改ざんを防ぐ仕組みを導入することで、証拠としての信頼性を高められます。
機密情報には暗号化やパスワードの設定を行う
重要なファイルには、暗号化やパスワードによる保護を施すことで、万が一の漏えいリスクを最小限に抑えることができます。たとえば、顧客リストや技術資料、財務データなどの機密ファイルは、読み取りや編集を制限したり、アクセス時にパスワード入力を必要とする設定にすることで、外部持ち出しが困難になります。社内ルールとして機密管理の基準を明文化しておくことも重要です。
セキュリティソフトを導入する
ウイルス感染や不審な通信だけでなく、情報持ち出しに関わるリスクも検知できる総合的なセキュリティソフトの導入は、現代の企業にとって必須です。たとえば、DLP(Data Loss Prevention)機能付きソフトを導入することで、不審なデータ転送や外部ストレージへの書き出しを自動検知し、管理者に通知できます。また、遠隔ロックやデータ消去などの機能があれば、万が一の盗難時にも対応可能です。
まとめ
会社のデータを不正に持ち出す行為は、企業の信用や事業継続に重大な影響を及ぼします。処分としては懲戒解雇や損害賠償、さらには刑事告訴にまで発展する可能性があり、その対応には法的根拠と明確な証拠が不可欠です。不正の手口も年々巧妙化しており、USBやクラウド、チャットツールなど多様な手段が使われています。
このような背景から、企業には技術的対策と組織的管理の両面からの対処が求められます。もし社内で疑わしい兆候が見られた場合は、早期に証拠を収集し、必要に応じてフォレンジック調査の専門家に相談することが重要です。